第二十一話 カッコよすぎる彼③
銀色の丸いトレイの上にはタンブラーが二つ乗っている。
祐希はその一つを薫子の前にペーパーコースターを置くとタンブラーの一つを乗せ、その横にストローを添える。
ピンク色の濃淡がグラデーションになって、上の方ではまだソーダが泡をパチパチ言わせてる。
「ピーチソーダです」
「キレイ…すごいグラデーション。」
「まあ飲む前によく混ぜてもらわないとソーダ自体が苦いからね」
「混ぜるのもったいないです……」
そんな二人のやり取りを見てレオは
「シンプルに急いだな」
祐希に耳打ちした。
「イタリア男は誰でも口説くからね」
笑う祐希。
「ボクは桜以外の女性は眼中にないヨ、今だってユーキの武勇伝話してたんだし」
プーっと口を膨らませるレオだったが、
「早くオーダー決めてねぇ、お二人の邪魔はしないからさ」
大笑いながら調理場に行ってしまった。
「まだ見てるの?」
窓際にタンブラーをずらしてまで陽に透かしてグラデーションを楽しむ薫子に祐希が声をかけると
「だって本当にキレイだし、琥原くんが作ってくれたと思ったら……それだけでも」
と言い掛けて薫子はストローを紙袋から出すと、ゆっくりタンブラーに挿した。
かわるがわる頬を染め合う二人だが、今は祐希の方が赤かった。
「レオさんオーダーお願いしまーす、ブロッコリーとエビのトマトクリームパスタにカルツォーネひとつずつ」
調理場に向かって祐希が声をかけると中からレオは
「| Sì, volentieri.《スィ、ヴォレンティエーリ》」
"喜んで"と返してくれた。
「琥原くんのお勧め楽しみです」
「俺食いしん坊だから、自分で食べて美味しかったものをチョイスしたから期待して」
そのお楽しみが来た!まずはパスタと小さいガラスの容器に入ったサービスサラダが二つ。
レオに取り分け用の小皿もお願いして、またシェアして食べることにしたが、このお店の料理もボリューム満点だった。
サラダもお腹に入れるとすると、と薫子はパスタを取り分けてくれる祐希の手をガン見している。
「分かってるよ、少しずつね……まずはこのくらいでどうかな?」
「はい、大丈夫です」
薫子はニコリとしサラダを食べる。
「人参のドレッシングなんですね……美味しい」
思いの外、食べやすい。
パスタもブロッコリーとエビがゴロゴロ入っており、クリーミーでありながらトマトの酸味も相まって、さっぱりと食べられる感じだった。
それでも次に来るはずのカルツォーネを食べるの初めての薫子には大きさも分からずお腹に余裕がないと困るのだ。
ピーチソーダはかき混ぜると爽やかな味わいで甘すぎず口の中をさっぱりさせてくれるが、量が多い。
サラダは完食したが、大皿のパスタは3分の1くらい残ってる。
祐希は薫子の固まった顔から何を考えてるのか想像がつくと
「大丈夫、俺まだまだ全然入るから」
パスタを平らげた。
そして待望のカルツォーネの焼き上がって運ばれて来た。
「熱いからネー気をつけて食べてネ」
皿を置いていく頃には他にもチラホラお客さんも入って来ていた。
いつの間にかアルバイトも来ていてお水を運んだりオーダーを受けたりしている。
「これはね、最初の一刀目が楽しいんだ、よく見ててね」
祐希は言うとふっくらとしたカルツォーネの皿をテーブルの上で薫子から見える様に縦向きにおくと右手のフォークで軽く押さえつつ左手で持ったナイフを真ん中から手前に切り込みナイフとフォークで左右に開く。
すると中から、蒸気と一緒にふんわりチーズのいい香りとトマトソースにベーコンなどの香りが広がった。
「さすがに腹一杯……カルツォーネ気にいった?」
「琥原くんがナイフ入れた瞬間、マジックみたいで何だか興奮しちゃって……私チーズが大好きなんです!お腹いっぱいに近かったのに気がついたら結構食べてましたよね……」
薫子が恥ずかしそうに言うと、祐希は嬉しそうに
「何にせよ、お腹いっぱいはいい事だからね……意外と時間経つのって早いな……そろそろカコちゃんが気になるところに行こうか?」
「はい、お願いします」
立ち上がった祐希が会計票を取ると薫子がすかさず
「今日は私が!」
「何で?」
「この前ご馳走になったので今日は……と」
「じゃあさー、カコちゃんのお弁当もこれから俺お支払いする?」
「え?それはいらないです」
「じゃ、外食は俺持ちって事でいいよね?」
薫子にわざと顔を近づけてくる祐希に思わず後退りした彼女の慌てた様子に笑いながら
「行こう」
薫子の左手を取って祐希はレジに向かった。




