外伝 月子と豊の物語 その⑧
深夜に楽しみにして下さっている皆様
本当に有難うございます♪
残すところ、あと数話……
どうぞお楽しみに!
優月菜
「こんにちは」
勝手知ったる何とやらで豊は、月窓宅の玄関を開けながら中に向かって声を掛ける。
すると中から春子が出て来て
「あら!森内さん、お忙しいんじゃなかったの?」
「月子さんからお葉書頂戴して……お祝いが遅くなりましたが、この度は合格おめでとうございます」
月窓も中から出て来ると豊の肩をバンバン叩きながら言う。
「おぉ、豊!今回は本当に世話になったなぁ。忙しい中、有難う有難う。あんな娘に色々してくれて助かったよ」
「いえ、そんな。月子さんの実力ですよ。……今日はご本人は?」
「それが何やら慶應義塾大学との交流サークルとか言うののお試しに行ったのよ」
「あぁ、お出かけでしたか」
ガックリと肩を落とした豊を見て、月窓も春子も慌てる。
「多分、そろそろ帰ってくると思うの。上がってお待ちになって頂けないかしら?本人も喜ぶと思うし!ね!あなた?」
春子は月窓にも何か話せと言わんばかりに、腕を肘でつっついたが……。
当の豊は切り替える様に一気に捲し立てるた。
「すみません!とにかくお祝いを一言と思いまして仕事の合間に少し時間を貰って来たものですから、もう戻らないと。なので今日のところは失礼致します。あのこれ、皆様でお召し上がり下さい。それとこれは月子さんにお祝いです」
春子は、豊に新宿中村屋の手提げ袋とリボンのかかった縦長の小さな箱を受け取らされた。
「でも、これは本人に渡して貰った方が喜ぶと思うのだけど」
「あーいや、本当に四月も仏事以外は抜けられないくらい忙しくて、それを抜けさせて貰ったので、やはり戻らないと。では、これにて申し訳ございませんが失礼致します!」
豊は玄関の引き戸を開け外に出るとお辞儀をして出て行ってしまった。
残された二人は顔を見合わせながら
「また今晩も月子のグチにつき合わされそうだな」
「まあ、森内さんもお時間ない中の様ですし、仕方がないとしても運がないわね……」
月窓も春子も揃ってため息をついた。
そして、豊は今、収まらない気持ちを抱えたまま駅に向かい、善福寺公園の側道を全力疾走していた。
すると公園の中から声がした。
「先生!森内先生!」
豊がはっとして低木の木陰越しに、そちらを見やるとワンピース姿の月子が立っていた。
「え、月子さん?」
『あんな可愛いワンピース姿初めて見た。くっそ慶應ボーイめ!!』いらぬヤキモチを妬く豊。
「あの、まさか家においで頂いてたんですか?!」
「あぁ……合格お祝いを一言、言いたくて。でも会えて良かったです!おめでとう!」
「有難うございます!全部、先生のお陰です。本当にお忙しい中、たくさん教材をご用意頂いて、私……」
月子が何かを言いかけた時に豊は、つい先程の自分の気持ちの流れで皮肉めいた事を言ってしまう。
「もう、早速大学生活を楽しんでる様で良かった!今日は慶應ボーイとの交流サークルだったんですってね!」
「やだ、母が話したんですか?私はテニスのサークルって話だから行ってみただけです!でも、私が考えてたものと違って……しかもボーイだけじゃなくてガールもいました!!」
「あぁ、そう。仕事を抜けて来て、今急いで戻るところだったから、焦っていたせいか余計なことを言いました。すみません。では急ぐので、これで」
「あの!十分……いえ、五分でいいので、私にお時間頂けませんか?」
月子の真っ直ぐと豊を見つめる美しい眼差しに逆らえる訳がない。
「はあ、じゃ五分なら……まあ、ここに掛けましょうか」
公園内の近くのベンチに二人は腰掛けることになった。
少し間があって….ようやく月子が豊の方を見ないままではあったが口を開いた。
「先生……いえ、森内さん」
「はい?」
「私のこと、どう思いますか?」
「え?……」
『森内さんって初めて言われたなぁ。月子さんに本当のことを言うのは簡単だが、ヒマな時期がある月でも休みらしい休みもない様な仕事だし……大学生の彼女に今の自分の気持ちを押し付けてもな……』と、表面上の挨拶のような返事をすることにした。
「お綺麗ですし、やらず嫌いだっただけで、実は何でもお出来になる。しかも、もう今後のことまでご自身で考える力を持った、しっかりした女性だと思います」
「そんな事をお伺いしたいんじゃないんです」
「では、何を?」
月子は膝に置いた手で自分のスカートがぐしゃぐしゃになる程握りしめ、俯いたまま、話し出した。
「私、森内さんと初めてお会いした日から貴方のことが気になって、気になって……気づいたら好きになっていました。家庭教師をやって下さるお話が出た時には、もう天にも昇る気持ちで……でも実際はお会いすることはありませんでしたが、毎回頂く手書きの問題集は私にとっては宝物でした。この問題集を作って下さってる間だけは、私のことを考えて下さってるんだと思うと、それはもう嬉しくて……」
『これは告白?女性から?』豊の思考はぐるぐるになっていた。
「私は森内さんの目がすきです」
『僕と一緒だ』
「私はお顔もその少しクセのある髪も、長い指も細っそりされているようで鍛えられている腕も脚も、がっちりした肩も広い背中も高い背丈も長い手足も……全部好きです」
『僕だって月子さんのことは好きだ!でも付き合いの中で彼女に出来れば我慢を強いることはしたくないし……今は本当にムリだし……』
「お仕事がお忙しいのは分かってます!でも、私、もう黙っていられなくて……困らせたなら、すみません」
豊は意を決して月子と向き合う決心をした。




