第百七十六話 階段はどこまでも続く
「あの時、カコちゃん言ってたよね」
祐希が膝立ちしたままの薫子と少し身体を離して、呟く様に話し出した。
「え?なんて」
「結婚してからが普通だと思ってたって」
「確かにそう思ってたけど」
祐希は薫子の顔を見ながら
「僕だって……」
「だったら……」
『何故?今度は指一本触れてくれないの?
堪えきれずに"あの跡"の話をした時、直希さんのこと"ぶっ殺す"って言うくらい怒った後、たくさん私に口づけくれたのに……やっぱりダメだったのかな?』
薫子はもどかしい気持ちを吐き出しそうになる。
すると祐希が言った。
「あの時、大人の階段を一段上がっちゃったけど、
階段はどこまでも続くから」
「え?じゃ、結婚するまで階段はもう上がらないの?」
薫子の問いに
「それは分からない」
祐希は笑った。
「何なの、祐くん!」
「でももう無理はさせたくない」
「無理?」
「僕がカコちゃんを早く自分の彼女って思いたくて不安で暴走したからカコちゃんを怖がらせたし……僕に付き合わせて急がせたって事でしょ?」
「だから?」
「だから今は無理強いはしたくない」
「それ思いやり?」
「え?」
薫子が話し出す。
「私ね……不思議に思ってたことがあって」
「ん?」
「直希さんに……お兄さんから苺王冠を返して欲しくて食事に誘われては出かけてたけど、断れない訳じゃなかったと思う……お兄さんの中に祐くんを見てた」
「え?似てないのに」
「似てるよ。顔も似てる。ちょっとした仕草とか話し方とか……声はちょっと祐くんの方が低いかも……あの時は祐くんに会えなかったから……これは私の勝手だよね」
薫子は一息つくと
「だから今は多分、私の方が不安なんですけど」
「え?」
「私がそんな事しでかしちゃった子供だから本当はイヤになっちゃったのかな?って……」
「まさか!そんな事ないよ。とっても大事にしたいから……だから婚約指輪も用意したんだし」
「しかも今日、祐くんはずっと自分のこと"僕"って言ってて……子供っぽい私に合わせてるみたいで気になっちゃうんだけど」
「これは……大学生になってから"俺"って言う様になって……本当は僕って言い方、子供っぽい気がしてたけど、カコちゃんのお父さんが"僕"って言ってるの聞いて、大人でもカッコいい人は"僕"が似合うんだなって。僕もそう言う大人になろうと思って」
薫子は慌てながら話す祐希を見て笑いながら、しれっと
「子供に戻りたいのかと思っちゃったよ、祐くん。でも、私、大人扱いもして欲しいの」
祐希の琥珀色の瞳を覗き込んだ。
「カコちゃん」
思わず祐希が薫子を抱きしめようとした時、
「あ!そうだった!私もちょっと早いクリスマスプレゼント用意してあるんだった!」
と立ち上がる。
『これこれ、いつものやつ』
苦笑いした祐希だった。




