第百七十四話 二人の約束
「パパ?いつからそこにいたの!?」
和室の少し空いてる引き戸から顔を覗かせていた豊が答える。
「ん?何かピーちゃんが、僕のこと起こしに来たから、どうしたのかな?って思ったら、ちょうど僕の名言を祐くんがカコに話してたとこらへんから」
「ピーちゃん」
薫子は思わずピーちゃんに"めっ"と言う顔をするも、ピーちゃんの顔は笑っている様に見えた。
「ごめん、ごめん、邪魔して。じゃ、寝るから、おやすみ〜あとは二人で、ごゆっくり」
クスクス笑いながら豊はピーちゃんと"レミタン"を抱いてリビングから出て行った。
「そっか、そうだよね。婚約って言えば良かったのか……」
祐希は俯き独り言をブツブツ言っている。
『この後、どうするのかな?祐くん』
薫子の左手は握られたままだったが、急に思い立ったかの様に祐希が言った。
「仕切り直していい?」
「え?やり直しって事?」
「うん」
祐希の後ろに、またものすごい勢いでフリフリされる尻尾が見えた薫子は、その見た目とのギャップにいつも抗えない。
「もちろんいいよ。祐くん」
「有難う!ごめんね。こんな大事な事をやり直すなんて……しかも順番も間違えてた」
「順番?」
「うん」
祐希は借り物のズボンから、何やら小さなハートの形のケースを取り出した。
そして、それを開けると両手で差し出して薫子に中を見せながら祐希はゆっくりと言った。
「僕と婚約して下さい」
ケースから見えたのは※甲丸型の銀色の指輪。
真ん中には金で縁取られたハート形のピンクの色石が嵌め込まれている。
「これって……まさか」
色石の両側には左右対称に"蔦"が絡まり合う様に表面に見える部分にだけ彫金されていた。
「世界に一つだけの薫子さんへの愛を誓う婚約指輪です」
「祐くん……」
「幸せの形が色々だって事、僕には分からなくて遠回りしたけど、ずっと一緒にいたいのは薫子さんだけです。楽しい時も辛い時も悲しい時でも一緒にいさせて下さい」
「う、嬉しい……」
薫子は涙が止まらず後の言葉が出てこない。
「指にはめさせて貰っていいですか?」
「は…はい」
薫子は左手を差し出した。
その薬指に祐希は震えながらも指輪を入れる。
「ぴったりだし、カコちゃんに似合ってる」
薫子は考える。
「もしかして……祐くん?」
「あ、分かっちゃった?」
祐希は今度はいきなり指輪そのものをポケットから取り出しながら薫子に渡す。
「これは僕の……はめてくれますか?」
コクコクと頷く薫子は祐希の左手を取るとゆっくりその薬指に指輪を入れた。
同じ銀色。
シンプルに蔦の彫金だけが施されていた。
祐希が薫子を抱きしめると念押しする様に言う。
「約束だからね」
※ 全体的にコロンとしたボリューム感がある、太めで厚みのあるデザインのこと




