第百七十二話 好きってそう言う事?
「終わったぁ!祐くん、有難う。お疲れ様」
薫子が祐希に最後のすすぎを終えた大皿を渡した。
祐希がそれを両手で広げたナフキンで受け取ると手早く水気を拭き取る。
「いっぱい鍋とかフライパンとか色んな食器も使ってくれて大変だったよね……こちらこそ有難う」
「何が一番美味しかった?」
「えーと……」
祐希は考える。
ここで、もしも薫子が作った何かを言い当てられなかったら……
薫子はニコニコして答えを待っていたが、
「もう、気は遣わなくていいんだってばっ」
吹き出した。
「私は今回お手伝いだけだし」
「そうなの?」
「そうだよ。祐くん、今、挙動不審だったよ」
「いや、だって……カコちゃんがお料理上手だって知ってるし、好みが似てて美味しいって分かってるはずなのに、それを言えなかったらさ」
「お母さんのお料理の方が美味しくなきゃ、仕事に出来ないよ」
薫子はタオルで手を拭きながら肘で祐希を突っついた。
「優しいね。祐くん」
「いや、そんなことない」
「優し過ぎるよ。祐くんは」
「だってカコちゃんのことが好きだから……」
薫子は笑いながらキッチンの水ハネを台所用布巾で拭き上げた。
ちょうどその時月子がナイトガウン姿で
「お風呂空いたよ」
と声をかけてきた。
「じゃ、祐くんお先にどうぞ」
「え?カコちゃんこそ」
「いいから祐くん」
「でも」
「あー、はいはい仲が良くていいけどね。祐くん、はい、これ」
月子から手渡されたのは着替えと思われるもの。
「えっと、これは?」
「お正月開けたら新しくしようと思って用意してあったユウちゃんのパジャマと言いつつ、お腹すぐ出しちゃうから使ってるスウェットの上下、と下着。洗ってはあるけど新品だから。大きさも多分大丈夫だと思うから使って」
「いいんですか?」
「いいんですか?って、持って来てないでしょうよ」
「あ、はい」
月子に笑われて祐希は照れ笑いをしながらも嬉しそうにしている。
「お湯も今取り替えてるから、まだいっぱいじゃないかもしれないけど、早く入っちゃいなさい」
「分かりました!有難うございます」
「カコ、お風呂場教えてあげて。バスタオルは出してあるけど……あっ、お客様用歯ブラシも出してあげてね」
「うん」
「じゃ、私はもう部屋に行くね。二人ともお片付け有難う。おやすみ〜」
「おやすみなさい」
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祐希がお風呂から上がり、薫子を待たせていると思い髪の毛も乾かすのもそぞろにリビングに向かう。
廊下以外の電灯は全て消えていて、リビングのガラスをはめ込んだ扉から少しだけ光が漏れているのが見えた。
中に入ると和室の扉が少し開いている。
ソファには豊がレミーマルタンの瓶を抱いたまま、薫子が毛布をかけたのか気持ちよさそうに眠っている。
静かに祐希はその横を通って和室に入った。
祐希のために先程敷かれた布団の上には羽根布団が掛けられていたが、そこの上で薫子とピーちゃんが丸く小さくなって寝ていた。
実は三枝家は全館セントラルヒーティングで寒い場所はない。
ただ夜は、自室で寝る事を前提に少し温度を下げている。
『可愛い顔して。でも風邪でもひいたら困るよ』
祐希は子猫の様に寝ている薫子の頭を撫でると
「カコちゃん、お待たせ」
耳元で声をかける。
「ん?」
「お風呂お先に有難う」
「あれ?」
「え?」
薫子は祐希の顔を小さな手で撫でた。




