第百七十一話 Christmasのつもりの夜は更けて
「すごく楽しかった」
「パパが無理矢理誘ってごめんね」
「そんな事ないよ。本当に楽しかった。しかもお泊まりまで許して貰えるなんて……嬉しいよ」
「パパは祐くんの事、本当に好きなんだよね。明日の朝もご飯一緒に食べようね、なんて言っちゃって」
笑う薫子。
ここはリビングの隣にある和室。
引き戸を開放するとリビングと繋がり、かなりの広さになる。
更に、先程の食事を囲んだダイニングとリビングとの間に天井吊りのアコーディオンカーテンがあり、開けると全開放できる様にもなっていた。
ただこのアコーディオンカーテンは後付けで、ダイニングテーブルがない頃は、和室で食事をしていた。
というのも、今三枝家三人の住む家は以前、月子の父が書道教室を開いていた場所で、大人の門下生は和室で、子供達には今のリビング部分の板の間で指導をしており、小さな文机を何個も並べるのには、それなりのスペースが必要だったからだ。
ところが、その書家である月子の父が、ある時、急に"平屋に住む!"と宣言したかと思うと、練馬区寄りに物件を見つけて、すぐに転居した。
当時三枝豊・月子夫婦は豊の実家近く横浜市内でも住環境は良い方だった場所に住まうも、幹線道路の近くであることを心配していた月子の父母が、身体の弱い薫子を心配し少しでも緑が多く、上流社会的な地域性を持つ穏やかな吉祥寺で育てた方が良いと小学校に上がる前に転居を勧めたのだ。
元々、吉祥寺好きだった豊は一も二もなく、この勧めに同意した。
月子の父は豊を気に入っていた為、退官したら書道教室を継げと言い、家はくれてやるとも言ったが、今すぐ贈与となると税金がかかり過ぎる為、持ち主は月子の父のまま、かかる経費、例えば固定資産税、公共料金などは豊が負担すると言う事になった。
そしてその和室で今、薫子は祐希のためにお布団を用意していた。
「祐くん、お風呂沸いたよ。お先にどうぞ」
月子が呼びに来た。
「ても、お父様が……」
「お父様ってガラじゃないし、ソファでレミタン抱いて寝てるから、ほっといて大丈夫」
確かに、よっぽど楽しかったのか、シャンパンを月子と二人で一本開けた後、そんな強くもないのに祐希から貰ったレミーマルタンをブランデーグラス三分の一くらいをユラユラ揺らしながら、ピーちゃんを話し相手にリビングでチビチビ飲んでいたかと思っていたら、"祐くんがくれたレミタン"と名付け抱きしめながらソファで寝てしまった。
「本当、年上のくせに、いつまで経っても子供なんだから。お風呂洗い当番もやらないで」
やれやれと月子が笑いながら言う。
と言いながらも、ソファに移動した豊をよそ目に残った三人でのお喋りが楽しくテーブルの上も全く片付いていない。
薫子は祐希に目で合図を送って
「今日は僕の事もあってお疲れだと思います。ここの片付けは後は二人でやりますので、お母様、お先にお風呂をどうぞ」
と祐希に言わせる。
「カコったら、もう尻に敷いてんの?」
「違うよ。とにかく二人で片付けるから、お母さんはゆっくりお風呂に入って、もう休んで」
月子は薫子と祐希の笑顔を見ながら
「分かった!有難う。じゃ、お先にね。お風呂終わったら声かけるけど、パパは起こすと返ってうるさいから本当にこのままにしておいていいからね」
「はーい、ごゆっくり」
Eveの夜は、二人で仲良く後片付けをしながら更けて行くのだった。




