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100分の2の青写真《ブループロット》〜不便な時代もいいとこあるじゃんっ!!〜  作者: 優月菜


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第十七話 直希とナカイ


ところは新宿の高級ホテルのバーラウンジ。


ナカイとは真逆の正統派好青年と言う雰囲気の洗練されたスーツ姿の男性が一人、カウンターに座りロックグラスを揺らしている。そこに背後から近づく派手なスーツの男。


「久しぶり、中井」

「後ろも見ずに何でわかるん?」

「香水の香りだよ」

「え?そんな匂うか?」

「つけ過ぎじゃないか?」

「サラッと嫌味なヤツ、相変わらずやな」

と隣に腰を降ろすとバーテンダーに

「同じものを」

と言った。


カウンターの右手は上から下までの一枚ガラスかと思われるようなはめごろしの窓となっており、都会とは思えないほどの綺麗な夕焼けが広がっている。まもなく中井のグラスが目の前に置かれると、どちらともなくカチンとグラスを合わせる。


「同窓会は赤坂なのに、直希はここにはよく来るんか?」

と中井が聞くと

「弟がここに住んでるんだ」

先に来ていた稲垣(いながき)直希(なおき)が言った。

「え?ホテル暮らしなんか?」『祐希(あいつ)

そう先程、中井がツツミに話していた友達(ダチ)とは大学時代共に建築学を学んだ稲垣直希、祐希の腹違いの兄である。


「いや、弟の友人の親御さんがここのオーナーで、まあ父とも旧知の仲でね。ホテルの設計を頼まれた時に設計費はいらないから一部屋欲しいと言って引き受けたらしい。まあ次回の改修工事までという期間限定なんだが。で、弟は高校生になった時から、その部屋に一人で住んでる」

稲垣(いながき)光希(こうき)先生がそんな取引したん?」

「変人だったからね、あの人は。最上階の景色が気に入ったらしい。ふらっと海外に出かけては戻るのはここだったからね。」


お互いロックグラスを傾けながら話は続く。

「何で弟は一人でここに住むことになったん?」

「父の信託財産があって、本来なら18歳から受け取るはずだったものに、ここと別荘一戸と何某の金銭を母が16歳に前倒しにしたからかな。実のところ理由は分からない……僕が大学時代ドイツに留学して帰って来た時にはもう弟は一人暮らしを始めてた。まあ数ヶ月に一度だが夕食を二人で食べる約束はしてるがね」

「例の論文引っ提げて帰国した時か……何かお袋さんとあったとか?」

「いや、分からない」

「母も祐希を引き取る時には葛藤(かっとう)はあったとは思うが、むしろ僕よりも可愛がっていた時期もあったくらいだし……」

「こんな話は初めて聞くけど、本当にあの……その……稲垣先生は愛人との間の子をお前のお袋さんに育てさせたって本当なのか?」

先程まで関西弁だった中井も直希と話す時には標準語になってしまう。


「本当だよ。僕が小学生の高学年の時にはもう父は家には戻らなくなっていたし。まあ元々、母の方が熱を上げて父との結婚をお祖父様にせがんでと言ういわゆる形ばかりの結婚だったらしいし。母の実家は名家だったから潤沢な研究資金の提供に父は自分を売ったんだろうな。跡取り孫を急かされて家に帰って来ていたらしいが、僕が生まれてからは研究を理由に一ヶ月に数日しか戻らなくなってたそうだ」


「そうか」

「母は本当に僕のことは可愛がってくれたよ。笑顔が光希さんにそっくりねとよく言われてね。高校に上がる年の春、四年ぶりに、まあその間離婚協議は進んでいたらしいが、いきなり夜中に父が僕の部屋にやって来て、お前弟がいたら可愛がるか?と聞かれて….…自分はもうずっと一人っ子と思っていたけど、はい可愛がりますと返事をしたんだよ。で高校入学後のオリエンテーションの後の早帰りしたある日、リビングで父と母が対峙(たいじ)していて、その間に小さな子が立ってた。それが祐希だった」


「四年ぶりに帰って来て、それか……光希先生って型破りな人だったんだな。ところで対峙ってなんだ?」

「睨み合いってところかな……母は興奮して物凄く怒ってたよ……勝手に認知してたなんてってね。」

「認知したのに苗字はそのままだったのか?」

「まあそれが、あの人の母に対する謝罪みたいなもんだったのだろうけどな。むしろ相談も無しに事を進めたことに苛立ってたよ。しかも祐希の母親が亡くなったから母に育てて欲しいと話していたところに僕は帰って来てしまった」

「そうか」

「僕のことに二人とも気づいてなかったが、その時、その二人の真ん中にいる祐希が不憫(ふびん)に思えてね、今にも泣きそうな顔してたから」


そこでグラス傾けて一口飲むと直希は続けた。

「慌てて駆け寄って、名前を聞いて、僕はね直希って言うんだ、君のお兄ちゃんだよ。僕の部屋で一緒に遊ばない?って言ったら、祐希が"いく"って言ってくれたから抱っこしてその場から連れ出したんだ。その時、チラッとだけど母の顔色が変わったのだけはよく覚えている」

「流れが変わった」

「明らかにな。母も子を持つ親として、あんな小さな子供の前で逆上した自分が恥ずかしかったんじゃないかな。その後、むしろユウくんユウくんって祐希を可愛がってたくらいだよ。当時の祐希は身体も小さい方で色白で今よりもっと髪の色も明るくてクルクルしていて天使のように可愛かったから」


「お前からこんなに詳しく話して貰えるとは思わなかったけど」

「ここまで話すのは初めてだから、もし何かこの件でスキャンダラスな記事でも出たら、出どころはお前だから名誉毀損で訴えるけどな」

「おいおい、言わねえよ!俺はこれでも口は堅い方だからな。今日だってツツミと約束したから話さないって案件あるしな」

「僕に関係している訳じゃないだろう?」

『おっと、いけねー!余計な事言ってんじゃねーよオレ!』「の訳ないだろーが」


「お前は嘘をつく時、左の口角が上がるって分かってたか?」

と直希。

「え!?本当か?」

口を押さえる中井に

「慌てるところを見ると僕ではなく弟に関わる事なんだな?祐希の話をしたら食いつきが良かったのはそのせいか……お前の方が何か言いたいんだろう?とは思って話したんだが。」

「うーむ、でもこれはツツミとの約束で話したらあかんことになっとって」

「僕はそのツツミさんと言う人とは面識がないから、お前が僕に祐希の話をしたところでツツミさんにお前自ら話したことをバラさなければ問題ないと思うが」

「せやな、まあこれは弟を溺愛する兄としては知りたい情報やと思うし」

関西弁に戻る中井。


「相変わらず焦ると関西弁に戻るんだな。祐希のことでいったいどれだけ凄い情報なんだ?」

「お前、もう結婚考えてるか?」

「いや、諦めかけてる。僕自身より、父のことや母の実家の影がちらついて擦り寄って来るような女性ばかりでね。それで祐希の何を知ってるんだ?」

「オレはよぉ、ゾッコン惚れてる女がおるんよ」

「その女性がツツミさんと言う人なのか?」

「ん、だがよ、ツツミはオレのこと眼中にないっちゅうか分からんくて、大阪から理由をつけては会いに来てるんに上手いことかわされて……今日も実はここに来る前に()うて来てん」

お互いまたグラスを傾ける。


そして中井が続ける。

「今オレな"09"に、テイストの違う店を三店舗店展開しとって、その内の一つの店舗を任せとるんがツツミなんだが、今日その店に祐希らしき子が来とったんよ」

「何を扱う店なんだ?」

「まあオレは後ろ姿を見かけただけなんやが」

「そこまで言ったなら祐希だったという確信があって話してるんだろう?はっきり言ったらどうだ?」

「そこが言いにくいところで、ツツミとの約束であいつが思うには、お前が弟を溺愛しとるんやったら、この事を話したら絶対揉めよるから、話したったら今後一切口をきかんからて言われよって」

「そうか……となるとお前と僕の友情もこれまでと言うことかな?」

「え?どしてそうなるん?」

「こちらはお家事情まで話したのに、そこまで言いかけておいて、尚も好きな相手と僕とは接点もないのに気遣うなら僕は信用がないと言う事になるんだろう。」


直希は何とも言えない顔をする。

「あぁイヤ、そんなんじゃなくてさ、ツツミが心配したのは直希が弟を溺愛しとるから邪魔するんじゃないかってコトや…!あ!しもうた」

「彼女でも連れて買い物に来たと言う事だな」

「多分」

「多分ではなく、二人で買い物をしたんだろう?その店は何を扱ってるんだ?」

「ありがちな、まあ子供騙しの……」

「ペアで使うようなものか?」

「ああ……だが、はっきり言って、きちんとした商品やし、手作り品で結構話題の店でもあるからな」


『ツツミごめん…やはりもめそうや』中井は思っていたが言い訳がましく


「ツツミが言うには今まで来店したカップルの中ではダントツのお似合いカップルで、まあ祐希がカッコ良くていい子なのは当たり前として、相手の女の子は可愛くて真面目で素直な天使のような子だった言うとったからに。祐希もええ子と付き合い始めたんちゃうかと思うぞ」

と畳みかけた。それを聞いて直希思案顔をしていた。


「そろそろ移動しよう、同窓会に遅れる。」

と言って席を立って歩き始めた。


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