第百六十話 公園のお砂場④
祐希は当時を思い出して少し寂しそうに言った。
「俺は……兄さんがいなければ裕子さんに受け入れて貰えなかったって事を、当時、肌で感じてたから……楽しそうにしている二人の間には入って行けなかった」
「そんな事あったかな?覚えてないんだけど……」
「次の週から、園バスから外を見ない様にして、砂場に行くのもやめた」
「何で?」
「カコちゃんのお母さんにも"幼稚園児の時から変わってないの!?"って言われたんだけど……今やっと分かった、その通り兄さんに遠慮したんだと思う」
「遠慮……」
「裕子さんと兄さんから夫と父親を俺の母親が奪ったと言うことを子供ながらに分かってたから」
「だから……譲った?」
「この歳になっても自分の気持ちを出していいんだって気づかなかったバカだから俺」
「……そうだったんだ」
「ごめんね。二度も同じ想いさせた」
「でもね、私も忘れてたから……あれかな?って事一個思い出した」
「何?」
「琥原くんが園バスから見た光景、あれも直希さんのわざとだったのかもしれない」
「わざと?兄さんが何を?」
「あの日、高校生くらいのお兄さん達が五人くらい公園の砂場の向こう側のベンチでアイスキャンディー食べてた」
薫子は思い出した事を続けて話す。
「そのうちの一人のお兄さんが私に話しかけて来て、"何、作ってるの?"って、だから私は"お城なんだけど、バルコニーがうまく作れないの"って答えて」
砂のお城は壊れやすい。
薫子が思うバルコニーには手すりの下に、等間隔に間が空いている、いかにも童話のお城の様だ。
だが、穴を開ければすぐ崩れる。
「そしたら、"お手伝いしてもいいかな?"って言われて"いいよ"って言ったんだけど、わざわざお兄さんは母のところに行って"お嬢さんのお城づくり手伝わせて頂いても宜しいでしょうか?"って聞いて、母も"ご迷惑でなければ"って答えた」
「それが兄さん?」
「多分……その後また母に向かって"アイスキャンディーの棒を使いたいんですが洗ってから使いますので、いいでしょうか?"って、聞かれた母は目ざとく"当たり"の印字を見つけて、"いいの?もう一本貰えるのに"って。お兄さんは"お嬢さんに楽しんで貰えればいいんです"って。本当に貰わなくてもいいのかな?って思ったのが、私のその時のお兄さんに対しての印象」
その後、薫子は高校生の直希が見せてくれた技に驚くことになる。
お城の前に土手を盛る。
少し湿らした砂を力強く叩いてお城の壁に半円の円柱を固めた後、先に中をくり抜き、柵部分をつくると、友達からも回収したアイスキャンディーの棒を縦に五本差し込んで、その棒と棒の間を細い物差しを器用に使って縦長の穴をキレイな形で開ける。
その後、バルコニーの下部分に当たるところを上手い具合にゆっくり砂を抜き、お城からバルコニーが突き出しているかの様に仕上げたのだ。
「ビックリしたの!」
「そっか、それで楽しそうだったんだね」
不満気な祐希の言い方に
「琥原くんは過去の私にまでヤキモチ妬くの?」
「だって兄さんのことは直希さん、じゃ俺のことは?」
「琥原くん……でもこれは食事の時に、先生って呼んでるのを他の人に聞かれたら教員と学生の不適切な関係と思われたら困るからって言われてクセになっただけだよ」
薫子はシュンとする。
「ごめん。ちょっとだけヤキモチ妬いただけ……それで、そのことを何故兄さんがわざとしたと思ったの?」
「今回と同じか……もしかしたら一緒に遊びたかったのかも」
「え?カコちゃんと?」
「違うよ、琥原くんと私と三人でだよ」




