第百四十八話 直希の本心==加筆・修正あり
「直希さん!!」
裕子は我に戻ると、その直希の手を見て叫んだ。
「キャッー!!なんで?どうして?……」
と言いながらナイフから手を離して後退りして行く。
その後、その場にへなへなと座り込むと独り言をブツブツと繰り返す。
「わ、わ、私は……直希さんのために……なお……直希さんが……」
「母さん、僕はもう子供じゃないんですよ。自分の事は自分で出来ます。むしろ今回だけは放っておいて欲しかった……それにしても、よく切れるペーパーナイフだな」
直希はそう言いながら、そのナイフを机に置き、自分のポケットチーフを胸ポケットから抜き取り、右手で巻きつけると器用に口を使って縛りつけた。
薫子を抱きしめたままの祐希が振り返り
「兄さん、手が……」
「間に合わないと思って思わず手を間に入れてしまっただけだよ。問題ない。それより祐希、その背中は……」
「過去の遺物です。それこそ問題ないです」
祐希は薫子を支えながら立ち上がる。
直希は母の所業と鑑みて祐希を不憫に思う。
「母さんがお前を一人暮らしに追いやったんだったんだな」
「……一人暮らししたかっただけです」
「留学してた頃だな……すまない」
祐希は敢えて、その言葉には返答しなかった。
「いずれにしても二人とも、こんな事に巻き込んで申し訳ない。元々、父がイタリアで交通事故で亡くなった後、瑠璃子さんと同じ亡くなり方をした父が後を追ったと思い込んで母は精神を病んだ時期があって、不安定な人だと分かっていたのに……。最近、落ち着いていたはずなんだが、僕が論文の出版化の編集でホテルに寝泊まりして一人にしたのが良くなかったかもしれない」
「それだけじゃないですよね?」
祐希が言い返した。
「あぁ、そうだな。僕が結婚に乗り気じゃない事もあって、不甲斐なかったために母が暴走する事になってしまった。薫子さんには本当に迷惑をかけたと思っている……ただ」
「ただ?」
祐希が返すと直希は薫子を見つめながら
「本気になった……」
と呟いた。
直希の放った言葉に薫子は震えが止まらない。
「特別講義の時には、ただ祐希の付き合う相手として問題ないのかどうかだけ確認したかっただけだった。が、あの日、他の女性に感じた事のない薫子さんの聡明さに歓喜している自分を抑えることが出来なかった……」
直希は傷ついた左手を右手で庇いながら続けた。
「こんな気持ちになった事がなかったとは言え、薫子さんには赤坂の夜に怖い思いをさせてしまった」
「赤坂の夜?」
祐希が聞き返した時、薫子が顔面蒼白になり息を荒くして泣きながら
「やめて下さい!言わないで!!」
「これは、むしろ話しておかないと……」
「いや!やめて!」
尋常じゃない薫子の態度に祐希が戸惑うも直希は話を続けた。




