第百三十九話 想いがつのり過ぎて
荷物を持ってくれている木元が薫子に話しかける。
「医務室行く必要ないっしょ?」
薫子は頷く。
「また何かあった?」
小さく首を振った。
「ここでもう大丈夫、帰るから。荷物、有難う」
何も知らなかった時には頼りにしていたが、今となっては、木元は、稲垣家とも祐希との関わりもありすぎて迷惑をかける可能性がある。
薫子はむしろ何も言えなくなっていた。
荷物を受け取ると正門から回り道して家に帰った。
そして夕方、電話が鳴った。
両親の帰る時間はまだだ。
薫子は直希からだと思うと出られなかった。
「カコ?寝てるの?」
月子が玄関に靴はあるのに、どこの部屋にも灯りがついていないので、薫子が具合でも悪いのかと心配して部屋を覗きに来たのだ。
「あ、ごめんなさい……夕飯の支度もしてない」
「あぁ、カコ、顔真っ赤じゃない。熱あるね、いいから寝てなさい」
「着替えてもいなかった……」
立ちあがろうとした時、ふらついてベッドに倒れ込んでしまう。
「ちょっとカコ?しっかりして!カコ?」
「大丈夫、眩暈がしただけ」
「パジャマに着替える前に身体拭いてあげるから、ちょっと待ってなさい」
「ごめんなさい心配かけて」
「何?どうしたの?泣いてんの?どうしたの?」
月子の声が遠のいて行く。
身体が弱い訳じゃないのに、何かあると熱を出すのは子供の時から変わらなかった。
気づくとピーちゃんがまたそばで番をしてくれていたらしい。
「うぉーおーん」
と遠吠えした。
すると月子が慌ててやって来た。
「カコ、目が覚めた?医師に往診頼んだら、あなた貧血と栄養失調じゃないかって言われて……」
「え?」
「朝は一緒に食べてたから気づかなかったけど、お昼も最近学食でとか言ってたの本当なの?あと夕飯一人の時どうしてたの?」
「お母さん……ごめんなさい」
「な、何、謝ってんの?」
「だって恥ずかしいよね?料理研究家の娘が、今時栄養失調なんて言われたら」
「また泣いて。ほら、ちょっとおいで」
月子はベッドの上に座ると薫子を抱きしめて髪を撫でる。
「恥ずかしいことなんてないわよ。むしろ謝らないといけないのはこっち。仕事にかまけて娘の気持ちを考えてあげる暇もなくなってた」
「悪いのは私なの。全部、悪いのは私なの」
「どうしてカコが悪いの?」
「琥原くんの事、信じられなかったのに、稲垣先生には逆らえない。高見沢教授は稲垣先生と二人きりなるなって先に言ってくれたのに、それすら出来なくて」
「分かった分かった。泣かないの。もう全部一回忘れよう!幼稚園の時みたいにさ」
「幼稚園の時?何の話?」
月子はしまったと言う顔をして苦笑いした。
月子達、両親にも薫子に内緒にしていることがあった。




