第百三十八話 抑えきれない想い
連休明けの火曜日。
一限は数学から始まり、講義室移動もない。
薫子はまた一日中、蜂蜜色の髪を見続けるだけなのかと思うと胃が痛い。
話しかけるタイミングをものの見事にかわされる。
祐希とは、いつになったら話すことが出来るのかも分からず、彼女はだんだんと諦めの境地に陥ってきている自分を不甲斐なく思い始めていた。
『どうしてこんな風になっちゃったのかな?』
講義中なのに涙が出て止まらず、席を立つとそのまま中扉から外に出た。
いきなり出て行く薫子の後ろ姿に講義室の教員も学生も一瞬騒然としたが、直ぐに講義を再開し微積分の数式問題に取り掛かる。
ただ薫子が泣き始めたことに気づき胸が痛む男子学生一人を除いては……。
旧校舎の女子トイレに駆け込む。
このトイレは元々薫子しか使っていないも同然で、しかも今は講義中。
個室の中で、誰にも遠慮なくわんわん泣いた。
しばらくして終業の鐘が聞こえるも、まだ薫子は涙が止まっていなかった。
『どうしようかな。荷物取りに戻って帰ろうかな。
もう今日はいたくない』
それでも泣きながら戻る訳にも行かないうちに二限が始まってしまった。
二限が終わったら昼休み。
それまでここにいさせて貰おうと思ったところで何やら、外が騒々しい。
「入りまーす」
お掃除のオバさん達だった。
居場所のなくなった薫子は仕方なく講義室に戻ると、中扉を少し開けて様子を伺う。
数学演習のはずなのに、講義をしていたのは直希だった。
『何で!?』
とりあえず静かに自席に戻ると、隣の席の学生がメモを渡して来た。
そこには"演習の講師、具合が悪くて、何故か手が空いてるのか稲垣先生だけだったらしいよ"と書かれていた。
薫子は隣に向かって頭を下げた。
『どうしよう……昨日の今日で一番会いたくない人が目の前にいる。講義が終わったら絶対話しかけられる』
「三枝さん」
いきなり直希が名指しで声をかけて来た。
「顔色が悪いね。医務室に行って来たらどうかな?
前の席の君、ついて行ってあげたら」
講義室の中が薫子が出て行った時よりも直希と祐希の関係と祐希と薫子の最近の様子を知っている学友達の間に緊迫した空気が流れた。
『どうして、そんな事が言えるの!?』薫子は身体中の血の気が引くほど驚いた。
その時、木元が
「三枝さんは俺の彼女の友達なんで、俺が行きまーす」
声を上げた。
「ほぅ、武内さんと友人?まあいい、じゃ頼むよ」
直希が言って、そのまま講義を続ける。
木元は薫子のところまで階段を駆け上ると小声で
「荷物全部まとめな」
と促した。




