第百三十六話 そんなことまでする?②
門扉まで月子が直希を迎えに出た。
「初めてお目にかかります。稲垣直希と申します。
突然のお伺いにも関わらずお訪ねすることをお許し頂き恐縮です」
どこから見ても洗練された好青年の直希は、片手でパンダのぬいぐるみを抱き、もう一方の手には梅園の手提げ袋とパンダ焼きの袋を下げていた。
「まあ、とにかく中にどうぞ」
「失礼致します」
木戸から玄関の中へと月子が誘導した。
中では豊がピーちゃんを抱きながら直希を待ち受けていたが、直希が玄関に入るや否やピーちゃんが唸り出した。
『ピーちゃんが唸るなんて珍しい』と豊も月子も思い、月子がピーちゃんをリビングのケージに入れに、一旦、その場を離れた。
月子が戻るのを待ち受けたかのように、再度、直希は薫子の通う大学で教鞭を取る立場であることも含め先程と同じ挨拶を彼女の両親に伝えた。
「薫子ももう戻ると思うので、もし宜しければお上がり下さい」
豊がムスッとした態度ではあるも声を発したが、
直希はそれを「こちらで失礼します」と辞退する。
そして
「本日、実は薫子さんとは上野動物園にパンダを見に行く約束がありご一緒させて頂きましたが、あまりの行列に見ることを断念致しまして、ところを変えて浅草に移動を致しました。そこで偶然、私の母に遭遇しまして……近頃、論文の製本化の編集で家を空けており、母が私に、そのことを小言を言い始め、薫子さんにお気遣いをさせてしまい、そこでお帰りになってしまったのでご自宅に無事お戻りかと心配で……大変失礼ながらお訪ねさせて頂いた次第です」
「そうですか。それはわざわざ申し訳ありません。が、その、稲垣先生は、うちの娘とは、いったいどう言ったお知り合いなのでしょうか?」
豊は当然のことながら直希と祐希の関係を知っている。
薫子は祐希と付き合っていたはずなのに、何故、直希と動物園に一緒に行くことになったかの経緯とそれをわざわざ話しに来たかの様な直希の本意が豊は気になったのだ。
「今年の一年生は薫子さんを始め優秀な学生が多いと聞き及び、自ら特別講義を申し入れました。そしてその席で薫子さんの突出した才能に、探究心が抑えられず、担当学年である三年生の意見交換会にお誘いしたのですが辞退されてしまいまして」
「そうすると接点はないはずですが、赤坂のホテルに宿泊させるような事になさったのは貴方でしたよね?」
「その節のお詫びも方々ご両親様にお会いしたい旨、薫子さんにもお伝えはしていたのですが、それすらも固辞されまして」
「と、すると今回はどの様なお話になりますか?」
「赤坂の一件から、実は|薫子さんとは個人的に数回"意見交換会"をさせて頂いております」
「え?」
豊と月子は顔を見合わせる。
「やはりご両親様には薫子さんはお話されていなかったのですね」
「な、何も聞いておりません」
月子が言う。
リビングからピーちゃんがずっと吠えていた。




