第百三十一話 この遭遇は偶然?
その後、薫子は、焼き鳥を懸命に食べ続けた。
話をする間を作らなかった事は何となく覚えているが、それ以外は何がどうなったのか、よく覚えていない。
気づくと老舗甘味処の梅園の店内、窓際のテーブル席で"クリームあんみつ"が来るのを待ちながら、二人で出された緑茶を飲んでいた。
隣接するテーブルとの間隔が少し広めの奥の席に着いた直希が対面でも座る薫子の顔を見て、照れ笑いしながら言った。
「待ち遠しい」
「甘いもの、お好きですもんね」
「違うよ、君が僕に近づいて来てくれるのがだよ」
「……」
今日の薫子は朝から内心微妙だった。
何だか分からないモヤモヤに周りから取り囲まれている様な……多分、今日の直希の放つ香りが祐希と同じものに思え、どうしても直希の仕草や話し方に祐希が重なってしまい気持ちが揺らぐ。
「お待たせ致しました」
店員の声掛けに薫子は目が覚めたような気がした。
「さあ、食べようか」
「はい」
その時、歳の頃は五十代か?加賀友禅と思われる訪問着に身を包み、いかにもお上品な奥様と言った雰囲気の女性が、あんみつを食べている薫子を見つめつつも微笑みながら歩み寄って来た。
そして直希の背後から声を掛けた。
「お久しぶりね。直希さん」
その声に一瞬凍りついた直希の表情を薫子は見逃さなかった。
それでも直希は一呼吸置くと、席を立たないまま右手側に振り返ると、何事もなかったかの様に
「やあ、母さん」
と応えた。
次の一言は直希の方から発した。
「今日は浅草で何か催しですか?」
「女学校時代のご友人方とね。これから船遊びでしてよ。奥の方のお席なんですけれど、見た様な後ろ姿だと思って来てみましたの」
「あぁ、そうでしたか」
「それで論文の原稿は仕上がりましたの?まったく、うちにも帰らないで、もう何ヶ月もホテル住まいなんて、どうかしてらっしゃるわ。たまにはお戻りなさいな」
「あぁ、はい。すみません」
「それで?」
直希の母、裕子は薫子の方を見てニッコリした。




