第百二十九話 焼き鳥屋で!!?①
薫子は慎重になっていた。
そんな薫子の様子を見て直希が笑いながら
「今日は帰りも車で送るつもりだから大丈夫。どちらも普通ドライジンジャエールだよ」
「あ、すみません。そう言う訳では……」
「いやいや、疑心暗鬼になるのも仕方ない。あの時は僕の方は一杯やらないと君とまともに話せないくらい緊張していたから……本当に申し訳なかった」
「緊張してらしたんですか?そうは見えませんでしたが……」
あの時の忌まわしい記憶が蘇る薫子。
終始、余裕がある態度の直希しか思い出せなかった。
ただあの時から感情を押し殺すしかなく鈍くなったのか直希と一緒にいても動じなくはなっていた。
「君は気づかなかったかもしれないが、君の後ろに回していた手がずっと震えていた….…だからまあ気づかれない様にソファにしがみついていたんだけどね」
「一杯飲んだら、饒舌になったって事ですか?」
「やっぱりまだ怒ってる?」
「……それは当たり前です……思い描いてた人生変わりましたから」
薫子にとっての分岐点は"結婚"と言う名目があってのこそと思っていたのに『気づかないうちに無くなった誇りは大きな損失』だった。
ただ祐希とは……自分でも、その時の気持ちを話せずに離れ離れになった事を悔やんでいた。
直希は悲しそうな顔をしながらも
「でも会ってくれる」
「それは“人質"がいなかったら私が来ないとは、お考えにはないんでしょうか?」
そう返答するも建築論を語る直希の話術に引き込まれて無碍に出来ない自分にも非があることは薫子も承知していた。
直希は少し考えた後
「赤坂の夜のことが君の人生を変えるほどの大きな出来事だったと言うことを僕が重く受け止めているからこそ、今は君が僕のことを認めてくれるまで待つつもりでいるという事を信じて欲しい」
「え?」
「薫子さん、改めて言うよ。僕は君のことを教え子などとは思っていない。あの講義の日から女性として君の事を見ている」
薫子は突然のことに言葉を失う。
「赤坂に連れて行った日には、自分自身の気持ちがまだ分かりかねていた。だが話を重ねて行くうちに、やはり君の聡明さやその素直な心もちと努力を怠らない姿勢にどうしても抗えなかった。君を愛し始めている自分に気づいた」
『いつも軽口とは違うけど。ここでこんな話?』
薫子が不審そうな顔をしている事にも気付かないまま直希はジョッキのジンジャエールをごくごくと半分くらい飲むとまた話を続けた。
「母は早くから僕に身を固める様に言って来ていて、馴染みのバーで飲んでいる時に限って母自身が選んだ名家の娘さんを送り込んで来た時期があってね。だが、そんなお嬢さん達は僕のしている学問に興味も関心もない。僕の後ろにある財閥にしか関心がない」
『先生は自分の気持ちを分かってくれる女性を思い求めてるの?でもそれは……』と考えながらも薫子は黙って聞いていた。




