第百二十七話 今は会いたくなかった
不忍池。
二人は線路から車両がぶら下がる「懸垂式」というタイプのモノレールに乗っている。
搭乗時間は一分半ほど。
動物園の東園から西園への、ちょっとした移動手段だ。
「あんなに待って頂いたのにすみませんでした」
「僕は構わないけど、ホァンホァンに会いたがってたのに良かったの?」
「……」
「声をかけてくれたのは会いたくない知り合いだったんだね」
直希は頷く薫子の頭を撫でた。
『桜さんとは今日は絶対会いたくなかったのに……
動物園に来てるなんて思ってもみなかった』と思う薫子。
そんな薫子の様子を見て、直希は目線を合わせる様にサングラスを上げると
「浅草の雷門の大提灯の中を覗いたことあるかい?」
直希に聞かれて小さく首を振った。
「ちょっと移動して見に行ってみないか?」
「はい」
薫子は応えた。
二人は一旦、駐車場に戻り車で浅草に移動した。
直希の馴染みの店の駐車場に車を預けると、そろそろ昼時と言ったところだった。
「何か食べよう」
という事になったがどこも満員御礼で、どこも行列が出来ている。
「もし良かったら焼き鳥でも食べないか?」
「焼き鳥ですか?」
「裏通りに立ち飲みの店があってね、昼間は若い恋人同士も立ち寄る様な店なんだ……他意はない。女性客もいるって言いたかっただけだよ」
"恋人同士"と言う言葉に微妙な反応を示した薫子に直希は言い訳を足した。




