第百二十一話 入学したての頃の様に
翌週。
薫子は入学当初の様に、話しかけられれば口はきくも自らは一切誰とも話をしなくなっていた。
土曜日の体育の後も弓道場の片付けを淡々とこなすと家に帰りシャワーを浴びて、いつかかってくるか分からない直希からの電話連絡を待ち、その月は二回ほど夕食に誘われた。
今年は厳冬の予想がされており、まだ十月だと言うのに冬の始まりの様な朝がある。
「寒っ」
日中は暖かい日もあるが朝晩の冷え込みがつらい。
『もうそろそろマフラーいるかな?』
薫子はそう思いながら大学までの道を急いでいた。
表門近く、祐希の見慣れた背中が少し前を歩いている。
早歩きすれば追いつけるのに、その距離は遠い。
そんな時、
「おはよう、カコちゃん!今日も可愛いね」
鈴木が声を掛けて来た。
「おはよう、鈴木さん」
「月曜は朝辛いよね」
「本当にね」
祐希と離れてから、いろいろな学生と話をする様になったが、ただ馴れ馴れしいのは優磨だけだった。
薫子も自然と慣れて誰にでも"です・ます"はやめてしまった。
木元達は祐希に遠慮しているのか、必要最低限の会話しかしなくなっていた。
薫子はこのところ食欲がない。
家では無理をして多少食べるも、母には昼ご飯は友達と学食で食べているということにして、その時間吉祥寺の街を当てどもなく歩き回っていた。
今日は文房具店で新しいロットリングを買おうかと立ち寄り何気なく店内を物色していると
「あれ!?君シンデレラじゃない?」
いきなり声を掛けられて
「え?」
薫子は慌てる。
その間に、大学生らしき男子が集まって来た。
「あっ、本当だ!」
「何してるの?今、大学生だよね?お昼はこれからなら一緒に食べない?」
「あの、私シンデレラじゃありません!」
薫子は店内から出ようとするも、広めの店舗ながら文房具店の通路は狭く四方から囲まれてしまった。
「俺なんかさ、君に三通も手紙書いたのに返事もくれないし……急にいなくなったと思ってたけど、やっぱり地元だったんだね!」
「僕らは今日たまたま学祭の手伝いで高校に遊びに来たんだけど、つまらないから帰ろうと思ってたらさぁ、なんと君と遭遇!」
「あの時冷たくしたんだから今日は付き合ってくれてもいいよね?」
腕を引かれて怖さで脚がすくむ薫子。
その時、
「俺の彼女に何の用?」
薫子の背後から声がした。




