第百二十話 目覚めたら
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『ん……頭が痛い……』
薫子が目を覚ますと、窓際に直希がナイトガウン姿でコーヒーカップを左手にソーサーを右手で添えて立っているのが見えた。
カーテンは半開き、レースのカーテン越しにもわかる"朝だ"った。
薫子は状況を判断出来ずに自分が今どこにいるのかも分からないが、バスローブを身に纏いベッドに横たわっていることに気づいて青ざめた。
直希はベッドに近づくとサイドテーブルにコーヒーを置く。
そして顔を背けた薫子の耳元で
「昨日はどうやら僕達の飲み物が入れ替わってたらしくて、でもそのおかげで君の可愛い一面を見ることが出来た……」
「……」
薫子は起き上がるとベッドの脚元に脱ぎ散らかっているドレスやストッキングを見て愕然とした。
慌ててベッドから抜け出ると、それらをかき集めてレストルームに向かおうとするも、頭痛がひどくで身体の自由がきかない。
背後から直希が薫子の腰のあたりに右腕を回して支えると左手で彼女の前にチェーンを垂らす。
「あっ……」
薫子は胸元を探る。
「大事なものなんだね?誰から貰ったのかな?妬けちゃうな……」
「返して……下さい」
薫子が手を伸ばした時には、直希はそれを一回宙に舞わせて手のひらに納めたところだった。
「また会ってくれるね?」
薫子は自分の"警戒心"の甘さを思い知った。
結局、直希に車で自宅まで送られてしまう。
終始、上機嫌の直希。
「昨日のことは、僕が意見交換を君にお願いしたところで、うっかり飲み物が僕のアルコール入りのものと入れ替わっていたのに気づかずに酔わせてしまったと話させて貰ったよ。その後、部屋を取ってホテル側に任せて僕は失礼したと、ご両親に謝罪のご連絡しておいたからね」
『話を合わせろと言う事ですね』
薫子はずっと喋っていない。
「あぁ、そう言えば……君、高一の頃、"午前0時でもないのに疾走するシンデレラ"だったんだってね」
「……どこで、それを?」
「聞きたい?機密情報みたいだから、情報源は内緒」
『琥原くん……まさか』
薫子の一点の曇りもなかった心に影が差した。
「すごいラブレターの量だったんだってね。僕も君とすれ違っていたら、どうだったかと考えるとドキドキするよ。まあ、僕なら正攻法で直接気持ちは伝えてたと思うけどね」
「どなたから聞いたお話か知りませんが、私はその"シンデレラ"ではありません」
「おかしいな、確かな情報なんだが」
「明らかに誤情報です」
「信頼できる情報提供者からの情報なんだけどな」
『もう、やめて!そんな話』
サイドミラー越しに、薫子の震える肩を見て直希は薄笑いをしながら、車を善福寺公園に差し掛かったところで停めた。
「今日のところは、昨日僕は帰ったことになってるから、ここまでね」
「はい……有難うございました」
「ご両親にはまたお詫びに伺いますと伝えて」
「それは結構です!この度は本当にご面倒をお掛けして申し訳ございませんでした。失礼します」
薫子が車を降りようとした時、直希が彼女の肩に手を回して身体を引き寄せると
「次に会う約束だけど……そうだな、今、ちょっと忙しいから、いつとは決められないが連絡は誘える土曜日の午後にご自宅に直接電話を入れるよ」
「次回?……あるんですか?」
薫子が震えながら言い返すと直希は楽しそうに
「預かり物があることを忘れないで」
耳元で囁いた。
家に着く。
土曜日午前九時過ぎ、恐る恐る自分で鍵を開けて家に入る。
ピーちゃんだけがちょこんと玄関マットの上に座っていて、家の中は静まり返っていた。
「そっか仕事があるもんね……」
今日は大学に行く気にもなれない。
その事で淋しい反面、薫子は少しほっとしながらバスルームに向かう。
身体にまとわりつく、直希のパフュームの爽やかな香りを早く流してしまいたかったからだ。
そして……
鏡に映し出された黒いドレスを脱いだ自分の首筋と胸に残るキスマークを見た。
『もう後戻り出来ない』と、気づかされた様で涙が止まらなかった
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これからもまだまだ不器用な二人の恋模様は続きます。どうぞお楽しみに!!
優月菜




