第百十八話 洒落た演出の思惑
そして料理が先にいくつか運ばれて来た。
銀色の大きなトレーの上には、ローストビーフサンド、シャンパングラスの様なグラスに色とりどりの細長く切り揃えられたスティック野菜にカナッペ。
脚付ガラスの大皿には、パイナップルの飾り盛り、
苺、マスカット、巨峰、ライチ、白鳥のモチーフのりんごの飾り切りが美しく並べられていた。
「フォークもナイフもいらない、カードゲームをする時と一緒だよ。話しながらつまもう」
直希がそう言った時
「お飲み物でございます」
ボーイがホース・ネックを運んできた。
らせん状に剥いたレモンの皮を丸ごと一個分グラスに入れ、その端を馬の首に見立ててグラスの縁にかけると言うインパクトのある飲み物。
もともとはジンジャーエールにレモンの皮を添えたノンアルコール飲料であるも、そこにブランデーを加えるスタイルが流行り始めていた。
「こちらがブランデーの入ってないものになります」
「お嬢さんに」
直希が言う。
目の前に置かれたホース・ネックは造形美に目のない薫子の表情が輝くのを直希は見逃さなかった。
「レモン一個分をどのくらい綺麗に皮剥きして見せるのかがバーテンダーの腕の見せどころなんだよ」
「綺麗です……」
薫子が頬を赤らめてホース・ネックを眺める横顔を見ながら直希は尋ねる。
「君が最初に建築物に関心を持ったのはいつ?」
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「そんなに小さい頃から……これは恐れ入ったな」
幼稚園時代の話をひとくだり聞かされた直希は苦笑いをする。
「先生はいつから……」
薫子が言いかけた時、直希がその唇に向かって人差し指を左右に振ると
「ここではそれは困ると言ったよね、名前で呼んで欲しい」
「え?そんな……無理です」
「じゃあ、僕は君のことカコちゃんって呼んでもいいのかな?」
「…っ!それこそおやめ下さい」
「では薫子さん、僕のことは?」
「な……直希さん……」
「少し恋人らしくなって来た」
と言って笑った。
「恋人ではないです」
「全否定か、寂しいね……僕としてはこの席に君と座って夜景を眺める甘い想像をしていたのに」
「からかうのもいい加減にして頂けませんか?今日は本当にどうしてこんな事をお考えになったのか私には理解致しかねます」
「あの講義の時、今まで擦り寄って来た女性とは違うものを感じたからだよ」
薫子は意味が分からず「え?」と言う顔をした。
「薫子さんはまだ若い。だが、僕が知る限りのどの女性よりも気高く賢い。そんな君に僕の様なおじさんが恋をしたら駄目なんだろうか?」
「いくらなんでも冗談が過ぎます」
「いや、本気だよ」
薫子は言葉をなくした。




