第百十七話 警戒心を怠った代償
夜景に目を奪われて上の空になっている薫子。
直希が横から
「薫子さん」
声を掛けられた方に思わず
「はい」
と振り向く。
薫子が座っているソファの背もたれに左腕を乗せ、右手はテーブルに頬杖を着いた直希の端正な顔立ちが目の前にあった。
思わず、薫子が身を引こうとしたが横にも後ろにもソファに隙間がなかった。
責任者に、直希はそのままの姿勢で
「適当にフィンガーフードをいろいろ」
と告げる。
「お飲み物はいかが致しましょうか?」
と問われ
「そうだな……グレープフルーツは好きかな?」
薫子そう聞かれて戸惑いつつも
「好きです」
「僕のこと?」
小さな声で囁く直希に薫子は真っ赤になって俯いた。
「ホース・ネックを二つ、一つはブランデー入りで頼むよ」
「かしこまりました」
責任者が立ち去るのを待って
「先生、これはどう言うことでしょうか?意見交換会ではないですよね?」
薫子は憤りを隠せずにいるも小さな声で尋ねる。
「今日は君と二人だけの意見交換会にしようと思ってね」
「二人だけ?」
『高見沢先生に言われたのに……人がいっぱいいたって二人だけじゃない!!バカバカ私のバカ』
「先生って呼ばないで欲しいんだが」
「は?」
「立場上、不適切でしょう?僕達、今のこの場所に二人でいるの」
「でも、それは……」
「そう、騙し討ちかな?」
「私は三年生の皆さんがいらっしゃると伺って」
「でも僕は君と意見交換をしたかった。この前の続き、宿題は僕に出されたものだったからね。他の学生とは無関係だし」
「……」
「それよりも何よりも、ここからの夜景も君に見て欲しかった。どうかな?高層ビルは」
「高層ビル……」
「さすがに木造で四十階は無理だとは分かるよね?」
「……はい」
「さすが三枝さんの見込みが早い」
「誰でも分かります」
薫子は嫌味を言われても、高見沢教授にあれほど言われた約束がまずは守れなかったことと自分の鈍さを悔やんでいた。




