第百十五話 直希の本心は?
直希は内心落ち着かなかった。
真面目で純粋な薫子を騙し討ちの様に言葉巧みに連れ回し、この後の種明かしにどう感じるのか心配になっていたのだ。
女性からの誘いを軽くいなす手段は心得ていたが、自ら女性に関心を持って接するのは初めてに近い。
支配人が薫子を伴って戻って来た。
「お待たせ致しました。いかがでしょう?」
薫子を前に招く。
「え?」
直希は正直驚きを隠せなかった。
少女だと思っていた女子大生は、"女"に変わっていたのだ。
「元々お綺麗ではありましたが、少しお手伝いしただけでここまでの美しさに満ち溢れる女性になられるとは従業員一同興奮致しましたわ」
「本当に……驚いた。綺麗だ」
「これで何処へお連れしても直希先生に引けを取らない方になりましたわね。小柄でスレンダーながら、なかなかのナイスバティでしてよ」
直希の耳元でマダムが囁いた。
「今日のことは、くれぐれも母には内密に」
直希は支配人に念押しした。
もじもじしている薫子に直希が声をかけ
「さて、それでは支度も整ったし行こうか?」
薫子は喉元まで、こんな格好で何処に行くのか尋ねる言葉が出かけたが、それは支配人を始めサロンにいる店員の前で直希に恥をかかせることになる様な気がして差し控えてしまった。
そしてまた直希の車に戻って来た時、薫子は、
「ここは助手席に頼むよ」
直希に言われて、頷く。
薫子としては次に向かうところが、フォーマルな服装で行くところであるならば助手席に座らないのは父の教えによれば、おかしいことにも薄々気づいていたからだ。
そして移動先。
ところは赤坂某高級ホテル。
直希の車は緩やかにそのホテル前で停まる。
外からドアマンが直希のBMWのドアを開けてくれる。薫子は腰を回して脚を地につけるとドアマンに手を借りて優雅に車から降りた。
直希はバレーサービス※1に車の鍵を預けるとバレーチケット※2を受け取り、背広の内ポケットにしまいながら、『ほう、彼女、実は本当にお嬢様なのか?』と考えながらドアマンから薫子の手を受け取ると、
「さあ」
と誘ったが、薫子はさりげなく、その手を取らずに直希の少し後ろを歩く。
その姿を見て直希は『やれやれ本当に生真面目なお嬢さんだな』と苦笑した。
ロビーに入ると直希は慣れ親しんだ雰囲気でフロントからもすれ違うベルボーイからも挨拶されている。
ゆっくりと後ろから付いてくる薫子の歩調を考えた直希の歩き方に、また薫子は祐希と重ね合わせてしまう。
ただ、ここは都内でも有数な高級ホテル、とは言えどホテルはホテル……薫子の緊張は高まった。
※1客の乗用車の鍵を預かり駐車場に移動させる係
※2その車の預かり証




