第百十三話 お着替え
「お待たせ致しました、お嬢様。こちらへどうぞ」
手を引かれて立ち上がる。
「えっと、先生?」
思わず直希に問いかけるも
「行っておいで待ってるから」
笑って言った。
廊下を歩く。
「お嬢様、お肌がお綺麗ですね」
と支配人と呼ばれている女性に言われる。
薫子は『琥原くんにも言われたっけ』と、何かにつけて祐希を思い出す自分が悲しい。
「お加減でもお悪いですか?」
「あ、いえ、大丈夫です。ただ私、これから何をするんでしょう?」
「あら、先生からお話しなかったのですか?先程、ご挨拶下さるところを先生がお止めしたのは、お嬢様が私共のお客様だからですのよ。お客様から私共にご挨拶はご不要と言う事です」
「お客様?ですか?何の?全くお聞きしてないのですが」
「まあ、とにかく、こちらに」
開けられたドアの先は、結婚式場で花嫁がウエディングドレスを試着する様な着替え室になっていた。
そこへ数名の店員と思われる女性が各自何らかの荷物を持って入って来て、端に置かれたテーブルに置いて行く。
その中から支配人は何かを探し出すと、
「お嬢様、お手伝いはこの後からとなりますので、まずは今着ているお洋服はご自身でお脱ぎ頂いて、こちらのランジェリーにお着替え下さい」
差し出された小さめのトレーの様なものには黒い下着の上下とスリップにストッキングなども用意されていた。
「あの、これに着替えるって事ですか?」
「はい、その様に承っておりますが、お時間が差し迫っているとお聞きしておりますので、なるべくお早めにお願い致します。では終わられましたら、ここのボタンを押して下さい。お脱ぎになったものはこちらで、お持ち帰り用にご用意させて頂きますので、こちらのお箱にお納め頂き蓋をお閉め下さい。それでは一旦、下がらせて頂きます」
薫子の私服を入れる用の空箱と壁についている"呼び出しベル"を案内すると支配人はドアから出て行ってしまった。
全身を映し出す三面鏡に囲まれて、カーテンで仕切りが作れるスペースに薫子はイヤイヤながら靴を脱いで上がると、カーテンを引いた。




