第十一話 可愛い知り合いって?
その階はとにかくキラキラしていて、久しぶりの都会らしい都会に出て来た薫子は眩しくて仕方ない。
「この店なんだ」
祐希が招き入れた店は建物の真ん中のしまに位置する出入り口が二箇所の縦に畳み二枚ほどの並べた様な店舗だった。
その時には祐希も手を離したので薫子も自然と祐希の服の端を離して、その出入り口の一方から入ると反対側にあるレジから店員と思われるギャル風の女性に、やたら明るく「いらっしゃいませー!」と声をかけられた。
店内はレジの並び、反対側の壁面を利用しておりチェーンは様々なタイプのものがU字のフックに数本ずつかけられていて、手前の少し飛び出した飾り板のようなところに小さな可愛らしいガラス容器に色々な種類のペンダントトップが入ってるものがずらりと並んでいた。
『アクセサリーショップなんだ…』薫子が店内をキョロキョロしていると祐希が、
「聞いた話だと、まずはペンダントトップを選んで、それをつける様の長さが色々あるチェーンを選んで……別の飾りを足すことが出来るんだって」
と言った。
「えーと、その差し上げるお相手の方はどんな感じの方ですか?」
「可愛い感じの女の子、三枝さんの趣味で選んで貰えたら大丈夫だと思うんだ」
「可愛い感じの…お好きな色とかは分かりますか?」
と聞いておきながら『どんな女性なのかな?琥原さんって彼女さんいるのかな?こんな可愛いペンダントをプレゼントする相手で可愛い人って』薫子はぼんやりペンダントトップを見ながらモヤモヤする気持ちが収まらない。
「ピンクが好きだと思う!で、どんなのがいいと思う?」
祐希に顔を覗き込まれ我に戻りると、目に入ったのはピンク色に白い小さな小さな種を模したプチプチが付いている苺の小ぶりなペンダントトップだった。頭の上のヘタもなんだかミントグリーンで可愛らしい。
「私はこれがいいかな?と思います。」
と指差す。
「可愛い!……じゃあさ、こっちのコーナーのチャームって飾りも足せるみたいなんだけど、どうかな?」
祐希が誘導すると、薫子はガラスの容器を眺めて王冠に目が止まった。
「あの苺にこの王冠が載ってたら可愛いくないですか?、浮き彫りが入ってて……アイビーが素敵ですね。」
祐希はそれを聞いて薫子は気づかなかったが、小さくガッツポーズをしながら
「そうだね!じゃこれね!」
『趣味一緒!』と嬉しそうに笑う。
『その笑顔は何?』薫子は戸惑いを隠せず、チェーンの方に向かい、
「あとはチェーンですね。」
冷静に言うと
「チェーンも形と太さと長さが色々だね」
「多分、可愛らしい方なら細めかな?とは思うんですが、苺が少し重いしチャームも足すので、やや太さのある感じの"フィガロ"の中細って言うのが良いかと。」
薫子が長さ40センチにアジャスターが5センチ付きエンドにハートが付いているものを選ぶと
「そうだね、ちょっと変わってて可愛いね」
祐希はそれを手に取った。
フィガロは3つの小さい丸いコマの後に1つ楕円のコマというパターンを繰り返す変則的な味のあるチェーン。
祐希もこれがいいなと思っていた。
そして
「ちょっと長さ見るために三枝さんチェーン試着してもらえないかな?」
と言いつつ
「その前に」
と店員に向かって試着がいいかどうかも尋ねる。
「掛けてあるチェーンは試着用なんで、どれでもお好きなだけお試し下さい!お買い上げの際は新しいものをお出しするのでご心配なく!」
と言った。
祐希はその回答に軽く挨拶すると
「良かった試着オッケーだった」
その言葉に薫子は一瞬戸惑ったが、
「はい。」
と言うと鏡に向かって前にアジャスターと引き輪を引いて自分で付けようとするも上手く行かない。
「手伝っていい?」
祐希が声をかける。
「お願いします。」
戸惑う薫子からチェーンをを渡されると、薫子の顔の前から分ける様にチェーンを両引きすると背中側でカチと引き輪開ける音がする。『おい、しっかりしろ震えるな!』と、薫子の手前に分けた髪の香りと華奢な首の後ろが顕わになったのに気を取られて祐希は指が震えて上手く繋げられずにいることに薫子は気づいてなかった。
薫子も薫子で首筋に祐希の指が触れる度に少しまた胸が痛くなる。『これは誰かのもので私のものではないんだから』と自分に言い聞かせていた。
「長さどうかな?」
祐希に言われ、鏡を覗く。
「ここに苺が来たら可愛いと思います」
薫子の華奢な首の周りに下がるチェーンは、可愛いと言われる人の鎖骨の間の窪みにもちょうど収まるだろうと思った。薫子は後ろ手でチェーンを外した後、同じものを購入する見本として祐希に渡した。
「じや、この組み合わせで買ってくるね!有難う、ちょっと待っててね」
「あの、私ちょっと店内がキラキラしてて眩しくて、あっちの方に出て待ってますね。」
少しだけ見えてる店と店の間の壁を指差すと
「分かった、疲れたよね、ごめん!もう少しだけ付き合ってね」
レジに向かった。
祐希と店員とのやり取りが店内の騒音にも近い音楽の合間に漏れ聞こえる限りでは、相手が女性でも臆する気配は無さそうだったので薫子は少しイラっとしていたところ、店員がこちらをチラッと見た。
「彼女さんにプレゼントですかー?!この色男」
祐希にめちゃくちゃ笑いかけた瞬間、オーバー気味に両手を振り祐希は
「違います違います!そんなんじゃないんです!」と全否定した。
「あれ?そうでしたか…お似合いなのに」
店員が言った後の会話は小さくなりほぼ聞こえない。
ただ薫子は祐希が全否定した言葉だけがリフレインされ、頭の中がそれでいっぱいになっていた。
胸が痛いを通り越して辛い。
泣きそうだった。
プレゼント包装に時間がかかっているのか、それとも数分のことが倍に思えるのか、祐希が戻って来たら役目は終えたのだから帰らせてもらおうと決めた薫子だった。
そして、祐希が戻ってきて
「お待たせしてごめんね!あれ?三枝さん顔色が悪いね、大丈夫?」
「…多分、人酔いしたのかもです、私帰ります。」
「え?あの、まあとりあえず外に出ようか?ここ騒々しいし」
と祐希が薫子の背中を支える様に手を出すも、薫子は先に下りエスカレーターに向かってしまった。
一人用幅のエスカレーターはこんな時便利だ。
何も喋る必要がない。
外に出たら少し息苦しさが消えた薫子は後から付いて来ている祐希に向かって
「プレゼント選びも終わったし、私ここで失礼してもいいですか?」
と言った。
「あのさ、顔色悪いし少し休んでからにしない?電車に乗ったら、また気分悪くなるかもしれないし」心配そうに祐希は答える。
「でも……」
『何だか分からないけど辛いんだってば、あなたといる方が…』と思っている薫子の右手首を左手で掴むと祐希が
「ここにいるよりもいい所知ってるから、とにかく移動しよう」
と言い薫子は連れ攫われる様に引っ張られ歩きだした。




