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100分の2の青写真《ブループロット》〜不便な時代もいいとこあるじゃんっ!!〜  作者: 優月菜


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第十話 友達の定義


翌日、昼休みまたこの後から製図で線引きだが、薫子は今日は何だかいつもと違う気分でお弁当を食べている。


今週はずっと祐希と二人で一緒にお昼だ。

最初は意識し過ぎて、ずっと高鳴っていた心臓も少し落ち着き会話も楽しめるようになっていた。

ただたまに目がまともに合ったりすると顔が紅く染まっているのが分かるので、しばらくはお弁当を食べる事に集中する事にしていた。


「今日のおかずも美味しい」

と祐希が嬉しそうに呟く。また後ろに大きな尻尾が見える薫子だった。


今日の線引きは、自分でも『えっ!?』と思うほどの出来になった。早く帰れるかもと言う期待が大きくなった時、チラッと隣の祐希の様子を垣間見る。

整った綺麗な横顔がいつも以上に真面目に素敵に見えてしまう。

『頑張ろう!』と薫子が線引きに戻った時、祐希の方が先程の視線に気づいて少し笑うと自分も作業に戻った。

「今日カコちゃん速かったね〜!」

と香山。

「昨日、琥原さんにお手本見せて頂いたら何だか肩の力が抜けて、そんなに力まなくていいって気づいて…」と薫子。

「何やるにしても力入れ過ぎなんだよ三枝さんは」と祐希が言う。

「でもそこがカコちゃんのいいとこじゃんか、真面目ってことだよねー」

と草壁。

「それにしても祐希君」

木元が意味あり気に声をかけて祐希が木元の方を見ると続けた。

「友情って素晴らしいね!ね、カコちゃん」

何故か薫子に話を振った。

「あ、そうです!本当に琥原さんには何回お礼を言っても足りないくらいです!有難うございます。」

言われた方の祐希は木元の事を睨みつけて余計なことをと言った感じだったが、薫子に対しては、

「いつでもまた一緒に描こう、それが俺にとっても勉強になるから」

と言った。


木元・香山・草壁の3人は実は面白がってるに決まっていた。


薫子に木元が今まで通りだと薫子自身の対人関係が狭まることを理由に距離を置くと言った結果、他の男子学生に薫子との接触の機会を与える事になる。

距離を縮める努力をタラタラしている祐希には、薫子に対して本気で自分の気持ちを伝えるなら早くしないと『トンビに油揚げを攫われる』かもしれないという圧力(プレッシャー)をかけたのだ。


ただ木元は薫子があまりにも純粋無垢な為、どんな男子学生達からの話しかけにも対応してしまい過ぎるのを心配して自身の気持ち次第で友達は選ぶことが出来るものだとも伝えた。

取捨選択は必要なものだと考える機会を与えて様子を見守る兄の様な気持ちで薫子に伝えたのは、薫子も薫子で祐希に対する自分の気持ちに気づいていないのだろうと木元が思ったところもあったからだ。


土曜日、午前二コマのうち一コマ目の英語の授業の後、体育の授業だったがあいにくの雨で、祐希と薫子の二人が取っていた"弓道"の授業が休講になってしまった。

あとの三人はテニスを取っていたが、やはり休講になったらしい。

多く学生は体育館に移動したり講義に移行したりで掲示板に張り付いていたのは、何故か"いつもの四人"と薫子を含む他数名、それを確認すると、それぞれが「どうする?」と言う話になっている。


と、その時薫子は急に

「私は図書室に……では皆さんまた来週も宜しくお願いします。」

そう言うと足早にそこから去ってしまった。

"いつもの四人"のうち一人は、その姿を目でも追い、他三人はその一人を見てニヤニヤしている。

「あのさ〜どこかに行こうって誘えばいいんじゃないのかな?」

と草壁。

「本当、祐希って奥手だなー」

と香山。

「だって、もし誘って断られたら……」

と祐希が言うと木元が

「毎日、一緒に弁当食ってるヤツがよく言うよな!じゃ、他のヤツが誘っちゃってカコちゃんがどこかに行ってもいい訳な?」

強めに言うと、祐希は

「俺帰るわ」

薫子が向かった図書室の方に走って行く。

「分かりやすっ!」

三人大笑い、

「これはこれは」

楽しそうに

「あとつけようぜ!」

祐希に着かず離れずで速足で追いかけ始めた。


祐希が図書室方面に向かうも窓から何故か薫子が大学の正門を抜けて行くのが見えた。

慌てて後を追うと、どうやら吉祥寺駅の方に向かっている様だ。さっきまで降っていた雨は今は止み、晴れ間が覗いている。大学から駅に向かうポプラ並木を薫子は一人で歩いて行く。

すれ違う同じ大学の男子学生が必ず薫子を二度見するのに、後ろからついて行っている祐希はそんな事にすらイライラしていた。


駅近く、一度薫子を見逃すも井の頭線の改札内にいるのを祐希は見つけると定期券を駅員に見せて自身も構内に入った。

祐希は後ろから着いて来ている三人に気づかないフリをしながら各駅停車に乗り込もうとしている薫子の腕を引くと対面側の急行に乗り込んだ。こちらの方が出発が早い。

腕を引かれた薫子はその相手が祐希だと分かると驚いたように

「どうしたんですか?何かあったんですか?」

と聞くと、祐希は薫子の口に人差し指を向けて

「しっ」と言う。

昼時にもまだ早い時間、人気はまばらで、その車両は誰も乗っていない。祐希は薫子にジェスチャーで身を低くするように指示すると外を行き交う三人から見えない様にシートの陰に隠れた。


「あれ?この辺にいたのに」

「どっかに乗ったのかな?」

「あいつ気づいてたんだな〜くそっ!」

香山・草壁・木元が騒いでる。


薫子は祐希から差し出された人差し指が今にも自分の唇に触れそうなのにドキドキバクバクが収まらず、『どうしよう!?』と思った時発車ベルと同時にドアが閉まった。


それを見てホッとしたかのように祐希は薫子の腕を取ってシートに座らせると、薫子からは見えていない外の三人の前を電車が通り過ぎる時、あっかんべーをした。

「やられたな」

と木元は言ったが、

「カコちゃんいたね」

草壁と嬉しそうに言うと

「来週が楽しみだね!」

香山が言い、3人揃ってウンウンと頷いたのだった。


井の頭線渋谷行き急行車内。


「あの、琥原さん…どうしたんですか?」

「三枝さんこそ図書室に行くって言ってたのに帰るの?」

祐希に聞き返される。


実は薫子は大学から歩いて帰れる地域に住んでいる。ただそれを他学生に知られない様にしなさいと両親から過干渉からの身を守る術にと念押しされていたのだ。


ではどうして今井の頭線に乗っているかと言うと、この新緑の季節、車窓から見える井の頭公園が大好きだった。

雨ゆえの急な休講だったが雨に降られた新緑も美しい。電車で一駅行って帰りは徒歩で戻ることにし各駅停車に乗るつもりが祐希のせいで急行に乗っている…とは言えなかった。


「えーと、その父の遺言で通学経路は人に教えないと言うことになっていまして……」 

父に言われた通りに言い返してみると祐希は

「お父様はご健在だよね?」

「えーと、はい、ごめんなさい。」


頬を紅潮させて答える薫子に、薫子の本来の乗車理由を知らない祐希はむしろ後を着けたりして悪いのは自分なのにと申し訳ない気持ちになっていた。

それでも

『誰よりも早く想いを伝えるのは今日しかない!』祐希はしれっと考えていた台詞を言い始めた。


「俺達、友達だよね?」

横長シートのドア側に座らされていた薫子はお互い膝にDバッグを抱えている為、祐希が自分の方を向く度に肩が触れて胸が熱い。


そんな中やっとの思いで

「はい。」

と答えると、

「買い物付き合って貰えないかな?」

と言われた。

「お買い物ですか?」

「知り合いの女の子にプレゼントをしたいんだけど、俺そういう事今までしたことがなかったし、どういうのが喜ばれるか分からないから三枝さんに助けて貰いたくて…ごめん!あとをつけて来ちゃったんだ……だめかな?」

また祐希が可愛く微笑む大型犬ゴールデンレトリーバーに見えてしまう薫子に否定する理由はなかった。

「はい、お役に立つのであれば。」

ただ、『知り合いの女の子って?どんな知り合い?』とまた胸がギュッとする。


この訳の分からない症状は祐希といる時にだけ起こる。『病院行けば良かったかな…』この時はこのあとの展開も知らずに本気で考えた薫子だった。


行き先を渋谷と言われ、店も決まっていると聞いた時、まず薫子が考えたのは一駅分の切符。

『考えろ薫子、琥原さんには悟られないようにしなきゃ』と思いつつ祐希に言う。


「お店が決まっているなら、店員さんに相談したら良いのでは?」

ほら来たと言わんばかりに祐希が返す。

「俺、本当に人見知りで、特に店員さんが女性だったりしたら多分何も聞けないかもしれないからさ」

「はあ、そうなんですね。」

「三枝さんは、初めて会った時からいい人だって分かったし話しやすいし…『話がしたいんだ』本当に人見知りだったこと忘れちゃうくらいなんだ」


『本当はもっと君を知りたいんだ』と思う祐希に

「あ、それ私も思いました……琥原さん、すごく礼儀正しく最初ご挨拶してくれたし、その後もチョコのことでは失礼なことしたのに許してくれて、お昼ご飯の時にお茶を持って来てくれたり、私のおかずなんて大したものでもないのに、お返しって言って頂いたプリンはものすごく嬉しかったです。」

恋愛師匠(れんあいマスター)木元有難う!』

「三枝さんが礼儀正しいから俺も気をつけなきゃって思うし、あ!昼休みは勝手に押しかけたのに、むしろおかずを分けてもらったり、用意してくれたり本当にこちらこそ有難う」

「そんなお友達ですから……」

と返しながら薫子は、『あれ?友達の定義は好きか嫌いか?だっけ?ただの友達でも二人でお昼ご飯食べたり、買い物に行ったりして良かったんだっけ?』ちょっと混乱する。


その後も他愛もない会話が続く。

「着いたね」

と祐希が言った。 


渋谷駅到着。


薫子は切符問題を何とかする為に捻り出した考えを披露することに、祐希が定期で改札を出た瞬間、

「ごめんなさい、ちょっと…」

と声をかける。

これは女子学生が言ったら、トイレだと悟れと木元に言われていたので自然と祐希は何の疑いも持たずに、先の右方の壁際を指差し

「あの辺で待ってるね」

とは言ったが、すぐには移動しないでこちらを見てるので、一旦薫子は落ち着く為にもトイレに本当に行くことにした。


出て様子を伺うと改札外の先の方に祐希がいる。

見つからないように切符の清算を済ませると改札を出て祐希のいるところに向かった。


さすが渋谷は人が多い。

まずは行き交う人々の洗礼を受けて、祐希の後ろを追うように歩いていた薫子は、電車に乗る為に急ぐ男性の振っていた腕を思い切り肩にぶつけられてよろめいた。が男性は「失敬!」と言うとそのまま改札に向かって行ってしまった。


祐希が慌てて振り返り

「三枝さん大丈夫?ごめん、俺が気をつけないといけないのに」

「いえいえ、人ごみに慣れてないだけなんで気にしないで下さい。」

「いや…どうしようかな…そうだ俺の真後ろにいれば大丈夫だと思うから、もし良かったらここ掴んで」

祐希は着ているパーカーのやや左寄りの後ろの裾を薫子の左手に掴ませると自分の左手で裾を掴んでいる薫子のその手に重ねて優しく握る。

「それと、ゆっくり歩くね」

「はい。」

重なる手の温かさに何だか身体がフワフワして、ドキドキも収まらず足元しか見られない、これがいつまで続くのかと思ったところで

「この中の店なんだ」

と祐希に言われ、見上げた先に"109"があった。


薫子は初めて来た"109"の中がまるでオモチャ箱をひっくり返したようにたくさんの店が隣接混載しているのと騒音に近い音楽が流れているのに驚いた。


そして祐希に

「店に着くまでこのままでね」

騒音が故に耳元で囁かれ、目をまん丸くしながらコクコクと頷いた。

一人幅のエスカレーターで上階に上がって行く。


四階にその店はあった。


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