第百九話 高見沢教授からの警告
「知らないついでに話しておくが、これも非常にこの界隈では有名な話で、直希君は琥原君を溺愛している」
「溺愛ですか?」
「もちろん弟としてね。稲垣が最初に弟がいたらどうする?なんて聞いたから、直希君は可愛がりますと言った自分の言葉に囚われているのかもしれんが……この一年生の特別講義については既に五月の定例教授会に直希君の直属の教授から提案があったんだが、必要性がないと言うことで一度却下されている」
「五月の半ば……ですか」
『お付き合いし始めた頃だ』と薫子は思う。
「そしてまた七月にも申し入れがあって……多分だいぶ根回ししたんだろうな。その時にすんなり認可されての今日の講義なんだ」
「そうだったんですね」
「そこで君は、直希君の何気なくを装って投げ掛けた言葉に正論で言い返した!その時は、さすが我が一年生の星と思ったが……」
「私が余計な返答までしたと言う事ですよね」
「あ、いやいや。その後の問答で、まあこれも憶測に過ぎんが、直希君は君の事を今まで自分に誘いをかけて来た女性とは違うと言う事に気づき、むしろ関心を持ってしまったと思うんだよ」
「わ、私にですか!?」
「でなきゃ、わざわざ部屋に呼ぶかね?それで三年の意見交換会に誘われたんだろう?」
「あ、はい……一年生同士じゃ話にならないだろうと仰り、三年生との答弁はきっと面白いと思うから聞きに来るだけでも来たらいいと言われました」
「それって、いつやるって聞いたの?」
「来週、お忙しい様との事で。でも日にちが決まったら櫻井さんがお知らせに来て下さると……あ、三年生の掲示板をわざわざ見に来なくてもいい様にとのご配慮の様です」
「そうか、そう来たか」
高見沢教授はしばらく思案げな表情をしていたが、
「三枝さん。ひとつお願いがあるんだが」
「え?私にですか?」
「これは親心から言わせて貰うが、頼むから直希君と二人きりにならないで欲しい」
「助教授とですか?……あり得ないと思いますが」
「意見交換会はともかく、とにかく直希君と食事に誘われても二人きりでは行かないで欲しい」
いつになく真面目な顔つきの高見沢教授の物言いに
「はい。分かりました」
薫子は応えた。
「常に警戒を怠らない様に、あの物腰の柔らかさに惑わされたらいけないよ」
「本当は怖い方って言う事ですか?」
「いや、そう言う事でもないんだが、琥原君に対しての溺愛からの行動なのか、それとも本当に君に対して関心を持った故の行動なのか分からないから警戒心を持ってもらいたいんだよ」
「警戒心ですね」
「うん、気をつけて欲しい。もし、何か変だと思ったら僕も坂崎君も気をつける様にしてるから頼って欲しい」
「分かりました」
「長話で疲れたよね」
「あ、いえ。ご心配を頂きかえって申し訳ございません。色々お聞かせ頂きまして、お陰様で琥原くんが、いつも私みたいな者に、これほどまでにと思うくらいに気を遣ってくれたのか分かった気がしました。有難うございました」
薫子は一礼した。




