第百七話 身勝手な話③
「鍵はお待ちになって…たまに顔を見せないと祐希ちゃんが貴方を忘れてしまいます」
「え?」
「お預かり致しますわ、……光希さんがまたどなたかと出逢われるまでで宜しければ」
「いや、それはない」
「断言ですか?」
「貴女は多分自分が俺を選んだと思っているだろうが、俺が貴女を選んだんだ」
「何を仰るんだか、資金援助のための政略結婚みたいなものでしたのに」
「俺はあのパーティーでの貴女を覚えている」
「え?」
「大階段を木元君のエスコートで降りて来た貴女は
漆黒の総レースのドレスを身に纏い、そこいら中の男どもを魅了していた。真紅の口紅と手には小さな真っ赤なビーズのバッグ、そして真っ赤なハイヒール。階段を一段ずつ降り足先がチラッと見えるたびに、後ろに残されるようなドレスの裾がマーメイドの様だった。俺も男だ。誰だあの美しい女性はと思った」
「あ、あれは父が木元さんも年頃だからと勝手にお見合いもどきを企ててホテル内を案内して下さって……そんな……初めてお聞きしました」
「ただ、あの時の俺は女性に関心がなかった」
「そうですわね。研究資金のために結婚を承諾されたのですものね」
「それでも貴女だから受けたんだ」
「今更、何を仰っているのかしら?おだてても慰謝料も養育費も頂きますわよ」
「それでいい。貴女らしい。そう言う魅力的な貴女に気づくのが遅かった……」
『気づいたら瑠璃子しか見えなかった……』
『光希さんがこんな事を仰るなんて、人が違ったみたい……』と思いつつ裕子が急に神妙な顔つきで尋ねる。
「でも、こんな事……しかも祐希ちゃんを琥原姓のまま認知なんかなさって、変なスキャンダルの元になりませんの?」
「そこは貴女は、ダメの旦那の尻拭いをする愛情溢れる賢母という事になるだろう。叩かれるのは俺だけで充分だ。大丈夫何とかなるさ」
「光希さん……貴方って方は本当に変わり者。周りを巻き込んで厄介なことばかり」
「すまないな。巻き込んでばかりで……ただ今は仕事は順調だ。厄介ごとは全部引き受けるから、直希を守ってやってくれ」
「祐希ちゃんのことも守ります」
「裕子さん、すまない。有難う」
テーブルの上の鍵を取る裕子。
「子供達には顔を見せて下さって」
光希に鍵を差し出した。




