第百五話 身勝手な話①
その後。
夜中、直希は高校進学を控えて机に向かい、これから始まる教科の予習をしていた。
大学付属の中高一貫校に在籍はしていたが、大学は国立を目指していたからだ。
そこにいきなりドアが開け放たれ、光希が入って来た。
「お父さん、どうしたんですか?こんな時間に」
何年振りに会うのだろう、髪に白いものも混じり老けた印象の父親に正直直希は戸惑いを隠せなかった。
光希はいきなり、そんな息子の目の前にしゃがみ込むと、こう言った。
「お前は、もし弟がいたら可愛がるか?」
直希は父光希の言いたい事の理解が出来なかったが、少し考えてから
「可愛がります」
光希の目を見て答えた。
「そっか、分かった。今日はもう寝ろ。寝るのも大事な事だぞ。じゃ、またな」
「あ、はい。おやすみなさい」
この会話が直希にとって未来を変える事になるとは思いもしなかった。
翌日、直希が中学最後の授業を終えて家に戻ると、リビングから話し声がするので向かう。
リビングでは光希と裕子が相対して立っている。
「なんて勝手な!!」
裕子が怒りを抑えられないと言った顔つきで光希に向かって叫んだ。
その時、直樹の目に入ったのは、その二人の間に小さな人影が所在なさげに立っているのが見えた。
色白の蜂蜜色のくるくるくせ毛の幼子だ。
ドアは開け放たれていたので直希はそのまま、その子に近寄りしゃがんで声を掛ける。
「君、お名前は?」
俯いていた、その子は直希の方をチラッと見ると
「ゆうくん」
と言う。
『琥珀色の瞳、なんて可愛いんだ』
「ゆうくん、僕は直希、君のお兄ちゃんだよ」
直希が言うと
「おにいたん?」
「そう、お兄ちゃんだ。一緒に遊ぼうか?僕のお部屋に来ない?」
祐希はこくりと頷いた。
そんな祐希を直希は軽々と抱き上げると、裕子が慌てて
「直希さん!直希さん!」
声を掛けるも後ろも振り向かずにリビングのドアから出て行ってしまった。




