第百四話 二人の未来
同期の協力のおかげで特待生のまま瑠璃子は無事大学を卒業。
大手建設会社に設計士として就職が決まった。
ここから実務経験をニ年積んで、ようやく一級建築士の試験資格が手に入る。
その努力の積み重ねたるや、女性ながら現場に出てなんぼの男性中心の世界では、想像を絶するも、瑠璃子は努力に努力を重ねて三年後、一級建築士資格を取得した。
光希と瑠璃子は彼女の卒業と同時に一緒に暮らす様になっていた。
神様の気まぐれか……本来なら喜ばしいはずの妊娠が一級建築士資格取得後、すぐに発覚。
瑠璃子は出産自体に二の足を踏んだ。
ところが光希が
「子供に罪はない、頼むから産んでくれ。俺にも甲斐性があるところを見させてくれ」
あっさり大学の研究室を後任として高見沢に譲り、独立して建築事務所を設立した。
たまたま裕子との出会いの場のパーティーで断った高層ホテルの設計を請け負う事にしたのが発端だった。
社長が代替わりし木元の父親が若い社長として、光希に打診したのがきっかけだった。
そしてその事務所の設立と並行して始めたのが裕子との離婚協議だ。
しかしながら慰謝料と直希の養育費は裕子の提示した額を飲むという条件であるも、なかなかこの話は進むことはなかった。
ところが祐希誕生から三年後のある日、瑠璃子は交通事故で、呆気なくこの世を去ってしまった。
享年二十九歳。
交差点で信号待ちをしていた瑠璃子にタクシーが運転ミスで突っ込んできたのだ。
祐希を保育園に預け、光希の事務所で仕事を再開し個人宅の設計を任され始めた頃だった。
その後葬儀が済むと光希は自宅に引きこもり、何日も仕事しない状態が続いた。
その間、祐希を保育園にもやらず放置した。
保育園側も母親の急死に父親が動揺することは、ままある事なので、様子を伺ってはいたものの面倒を見ていないとは考えなかった。
その時隣に住む初老の夫婦がその事に気づかなったら、祐希は今頃どうなっていたことか。
その事を隣人に嗜められ、ようやく光希は我を取り戻した。




