第百一話 時は流れて
瑠璃子が髪を切ってから三年が経とうとし彼女の髪はまた結べるほどまで伸びていた。
「主任、ここの計算間違ってませんか?」
当初は雑用を任されていた瑠璃子だったが光希の研究室の規模拡大に伴って他の研究員も増え、実質、研究自体に携わる様になっていた。
指摘された高見沢は主任研究員だったが瑠璃子の方が最近は計算力も早くなり、こう言ったやり取りも増えていた。
「あぁ、本当だ。有難う」
「いえいえ」
鼻歌混じりに、計算式の試算をする瑠璃子にたまたま近くにいた光希が声をかける。
「琥原、お前メシはちゃんと食ってんのか?相変わらずガリガリじゃねぇか」
『この人は本当に口が悪い!』と思いつつ
「ここのアルバイト代で三食頂いてます!」
大声で返すと光希が慌てて
「おいおい、あまり大きな声で言うなよ」
「え?」
「その何だ……お前一年の時、俺が言ったことで怒って髪切っただろ?どんなバイトしてたんだかは知らねぇけど、髪が理由で首切られたって聞いて……一応、気になった訳で……」
「え!!」
全く知らなかった事実に驚く瑠璃子。
「おいっ、声がでかい。だから、他の奴らより少しバイト代は多くしてんだ」
照れ臭そうに言う光希。
「あれ以来、いつも先生に対して反抗的な態度を取っていた私に……」
「あれはあれ、それはそれだ。そんなお前の態度は当たり前の事だ。髪は女の命なんだろうし。まあ、俺は、きちんとやることをこなしてるお前さんのことはこれでも評価してるから、これからも宜しく頼むな」
去って行く光希の後ろ姿に、瑠璃子は立ち上がって一礼する。
『修道女が仰った通り、捨てる神あらば拾う神ありって、この事なんだわ』
千葉県銚子市の教会に付属する児童養護施設で育った瑠璃子は、常日頃、修道女から躾的な指導を受けていた。
『汝、隣人を愛せよってムリだから』と思いながら成長した瑠璃子が、光希に反抗的だったのは無理もなかった。
ただ、その日から光希に対する瑠璃子の見方が変わって行った。




