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韋駄天?

一刀は、不満を露わにした。


「だからって、斬りかかってくることないだろう?」


時雨は、冷静に自分の行動原理を説明した。


「しょうがないでしょ? 僕は僕の食い扶ち(くいぶち)のためにやっているんです。異人に財布を取られたって話はよくあります」


一刀は、決めつけでアポロを悪者にすることに異論を唱えた。


「決めつけじゃないのか? 盗人ならこの辺にもいっぱいいる。異人だからって」


時雨は、一刀の指摘に理があることを認め始めた。


「確かにあなたにそう言われるとそうかも知れないですけど」


その議論の最中、屋敷の中から、トーマスが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「待ってください! イットウ! これで間違いないですか?」




トーマスが両手で抱えていたのは、数個の財布が無造作にまとめられた大きな束だった。そのあまりの量に、一刀は思わず目を疑った。


トーマスが両手で抱えていたのは、数個の財布が無造作にまとめられた大きな束だった。そのあまりの量に、一刀は思わず目を疑った。


(これは……まさか)


財布の束という明確な証拠を両手に抱えて、トーマスは顔面蒼白になり、平身低頭で謝罪した。


「すいません。アポロが国にいるときからの悪いクセでして、本当に申し訳ない。アイツが悪いだけで、我が国の人が悪い訳ではない。本当にご容赦を」


トーマスは、アポロの悪癖を国のせいではないと懸命に説明し、一刀と時雨に許しを請うた。


その背後では、アポロが全く悪びれる様子もなく立っていたが、トーマスに無理矢理、頭をねじ伏せられ、形だけの謝罪をさせられていた。


アポロは心の中で舌打ちした。


(ちぇっ)


一刀は、自分のアポロ擁護が完全に的外れであり、時雨を疑ってしまったこと、そして結果的に喧嘩を売ってしまったことを謝罪した。


「ごめん」


時雨もまた、「食い扶ちのため」という浅い理由で友人を斬ろうとしたことに後悔を覚えた。


時雨は、財布の束と、トーマスの必死な様子を見て、自分の推測が図らずも当たっていたこと、そして一刀との争いが完全に誤解に基づいていたことを悟った。


一刀は、事の真相が明らかになった後、アポロに対し、その行為の理由を尋ねた。


「アポロさん、どうしてこんなことを」


アポロは、反省の色をほとんど見せず、自分の行動を正当化した。


「アイツらの態度悪いのがいけねえ。懲らしめただけ。俺はみじんも悪くない」


窃盗ではなく、教育的な指導だったと言いたいようだったが、一刀は納得しなかった。


「別に財布を盗らなくてもいいでしょ? 注意するとか、他に方法はいくらでもある」


一刀の真っ直ぐな指摘に、アポロは面倒になったのか、渋々折れた。


「ああ、わかったよ。もうやらん」


彼はそう言い捨てると、その場を離れることを選んだ。


「ちょっと外で風に当たってくる」


アポロは背広を肩に掛け、身体を揺らしながら、異人館の門から外へと出て行った。


トーマスは、再びトラブルの種を撒き散らしそうな友人の姿に、心底呆れたように深く息を吐いた。


時雨は、地面に散らばった財布の束を丁寧に拾い集めた。


「取り敢えず、僕はこれ、みんなに返してくるよ。その後でまたここに来ます」


彼は、一刀との再会が偶然で終わらないことを示唆し、仲間の様子を尋ねた。


「みんなは元気ですか? さっき静さんらしき人には会ったけど」


「ああ、相変わらずだ」

一刀は、静は少し気落ちしているが、他の仲間は戦闘の傷を負いながらも無事であることを簡潔に伝えた。


時雨は、一刀の返事を聞き終えるか否かの瞬間に、踵を返した。そして、地面を蹴った時雨の姿は、文字通り一瞬で遠ざかった。その驚異的な速度は、普通の人間の走りとは隔絶していた。


トーマスは、目の前で起きた光景に目を丸くしくして驚いた。


「韋駄天とは彼の事ですか!?」


一刀は、苦笑いを浮かべながら、親友の規格外の速さを改めて認識した。


「そうかもね」


時雨は、トラブルメーカーであるアポロのしでかした顛末の尻ぬぐいを引き受けるため、港へひた走る。時雨は、一刀との再会は、彼の今後の行動に大きな影響を与えることになると確信していた。




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