表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
55/58

一刀対時雨

時雨は、アポロの顔の特徴をリーダー格の男たちから詳細に聞き出した。


リーダー格の男は、懐から一枚の小さな写真を取り出し、時雨に手渡した。そこには、先ほど喧嘩をしていた異人の顔が写っていた。


「よく、こんなものがあったな」


時雨は、現代的な写真という技術と、その証拠の鮮明さに驚いた。




「それが、アイツ自ら落としていったんです。喧嘩の最中に」


時雨は、受け取った写真を軽く睨んだ。


(何も言えないほど馬鹿なのかな、ソイツ。ま、探す手間省けていいけど)


時雨は心中でアポロの軽率さを嘲笑したが、任務が楽になったことに利便性を感じた。


「でかした。なら、いって参る」


時雨は、表向きは快く引き受けたが、すぐに新たな懸念が頭をよぎった。


(とは言え、コイツら相手に誰一人掠りもしないって、僕にどうしろって言うんだよ。明らかに馬鹿じゃなきゃ、挑発してんだろ)


時雨は、港の男たちが単なる素人ではないことを知っていた。その男たちが一発も攻撃を当てられず、力尽きるまで一方的に弄ばれたという事実は、アポロ・ゴールドの尋常ではない実力を物語っていた。時雨は、この厄介な任務を前に、深い憂鬱を感じながら、異人館のある丘へと向かい始めた。


時雨は、優れた情報収集能力と地理感覚を発揮し、半日もかからずに、アポロとトーマスが滞在する該当の異人館へと辿り着いた。


彼は、顔を隠すために編み笠を深く被り、公の人間であることを装って、敢えて声を荒げた。


「ごめーん! 当方、港の諍い(いさかい)の件で少々お尋ねしたきことがある! 誰かおられるか!」


時雨は、冷静沈着な普段の彼とは似つかない大声で、役人のような態度を取った。これは、正当な理由を装い、異人館の住人を呼び出すための戦略的な行動だった。


時雨が大声で呼びかけると、屋敷の扉が開き、予想外の人物が顔を出した。それは、静だった。


静は、事情を知らないため、客に対応するために愛想の良い笑顔を浮かべた。


「はーい。何で御座いましょう?」


静が時雨の編み笠姿を不審に思って近づいた時、静は目の前の人物を見て、わずかに首を傾げた。


「あら?」


時雨は、静の声と、彼女が間近にいることに動揺し、即座に顔を背け、編み笠をさらに深く被り直した。彼は、任務遂行中であり、刀司の仲間と鉢合わせることは避けたかった。


時雨の内心は、激しく動揺していた。


(おいおい。知り合いじゃねえか? 多分そうだろう、いや気のせいか? じゃなくもないような気もするけど違うかも、よく見えないからわからん。 かと言って、じっと見つめるわけにもいかないし)


時雨は、声の動揺を隠すために咳払いをすると、役人としての体裁を保ちながら本題に入った。




「ご、ごほん。んっんっ。あー、先ほど港で暴れていた異人がここにいると聞いて参ったのだが。この写真の」


時雨は、アポロの写真を静に突きつけるように差し出した。


静は、写真に写る男を見てすぐに納得した。


「――。多分、アポロさんね。呼んできますね」


静のあっさりとした対応に、時雨は安堵した。


「迅速に願いたい」


(案外円滑だな。良かった)


静は、屋敷の中に戻り、くつろいでいたアポロに事の仔細を伝えた。


「めんどくさい。追い返してくれ」


アポロは、港の諍いの追求など取るに足らないと考えていた。


その時、一刀がこの状況を好機と捉え、しゃしゃり出た。


「なら、私が行きますよ。アポロさん。私が話を通してきます」


一刀は、アポロの性格を知り、自分が出向くことで彼の信用を得られると考えた。


アポロは、座ったまま、面倒なことを代行してくれる一刀を見て、都合が良いと判断した。


アポロは、座ったまま、面倒なことを代行してくれる一刀を見て、都合が良いと判断した。


「ああ、そうしてくれるか。ありがとう、イットウ。頼む」


こうして、時雨は静との予期せぬ遭遇に動揺しつつも、次に門前に現れるのが、よく知る一刀であるとは知る由もなかった。


一刀は、アポロの代理として門前に立ち、編み笠を深く被った時雨と対面した。


一刀は、童流シズルの策略で屋敷への立ち入りを禁じられたばかりであり、自分たちが厄介になっているアポロの名誉を守るため、強い警戒心と義憤を抱いていた。


時雨は、目の前の男が刀司の一刀だとは夢にも思わず、面倒な異人館の使用人だと認識していた。


「そちらのお方は、アポロ・ゴールド氏の関係者とお見受けする。先ほどの港での諍い、そして港の男たちの懐から金銭が消えた件、ご存知であろう」


時雨は、証拠の写真を懐に忍ばせながら、冷静に事実を突きつけた。


「嘘だ!」


一刀は、顔色を変え、一方的に怒鳴った。


「アポロさんは、そんな卑劣なことはしない! 貴様のような編み笠で素性を隠した無礼な者が、言いがかりをつけているに過ぎない! 俺達を脅かすつもりか? とっとと帰れ!」


時雨は、一刀の激しい反応に驚き、戸惑った。時雨の頭の中では、交渉を優位に進めることよりも、依頼主から受け取った前金が手ぶらで帰ることを許さないという現実的な問題が大きくなっていた。


「こちらとて任務がある。無関係の者を装っているのは貴方の方では? これは業務だ、引き下がるわけには――」


「ならば、力ずくで追い返すまで!」


交渉は決裂した。一刀は、仲間の義と、静の羽休めの場所を守るため、短刀を抜き放った。


時雨は、目の前の男が異常な殺気を放つ強敵であることを悟り、やむなく編み笠の奥で表情を引き締めた。


一刀と時雨は、互いの正体を知らぬまま、異人館の門前で本気の斬り合いを繰り広げた。

二人は刀司としての経験と技量を持っており、その交戦は激しく、目にも留まらぬ速さで展開した。彼らは何度か刃を重ね合い、互いに本気の殺意をぶつけ合った。


一瞬、二人の体が鼻先が擦れ合うほどの至近距離で激しく衝突した。


編み笠越しに、一刀の鋭い視線と、彼の構え、そして独特の気の流れを感じた時雨は、全身に走った既視感から、目の前の相手が誰であるかを理解した。


(この構え、この速さ、そして、あの時……僕を鼓舞してくれたあの熱量――まさか、 一刀さん か!?)


時雨は、自分が今、依頼主の代理として尊敬する先輩刀司と交戦しているという信じがたい事実に、内心で激しく動揺した。


一方、一刀は、時雨の異様な強さと技の鋭さにただならぬものを感じていたが、編み笠がその正体を隠していた。


激しい攻防の末、一刀の短刀の一撃が、ついに時雨の編み笠を切り裂いた。


編み笠が砕け散り、その下から現れた顔を見た瞬間、一刀は息を飲んだ。


「な……時雨!?」


編み笠が切り裂かれ、お互いの正体を知った一刀と時雨は、斬り合うのを止め、刀を下ろした。


「お前、何やってんだ?」


一刀の驚きと戸惑いの声に、時雨も困惑を隠せない様子で切り返した。


「あなたこそ何してるんですか? 異人の手先になって。ここは良くない噂の場所ですよ」


時雨は、この異人館周辺に危険な匂いがあることを察知していた。


一刀は、事の経緯を簡潔に説明した。


「難儀の蓋の件で事情が出来て、ここに厄介になっている。決して悪い人たちではない」


そして、時雨の目的について尋ねた。


「時雨こそ何やってんだ」


時雨は、自らの放浪の顛末を苦々しく語った。

「僕は忍びの里に帰ろうとしたら帰れぬ事情が出来て……。その内に右往左往して、この神戸に辿り着いたんです」


時雨の言葉の裏には、里に帰ることを阻まれたという深刻な問題が隠されているようだった。刀司同士の思わぬ再会は、敵対ではなく、情報交換へと切り替わった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ