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手のひらの上

童流の冷酷な現実に、静は絶望の淵に立たされた。


「そ、そんな……」


童流は、静の動揺を見て、さらに決定的な一撃を与えようと、悪意に満ちた笑顔を浮かべた。


「事実でしょ? もう一つ教えてあげるわ」


彼女は、業霊武に指示を出すと、土塊でできた巨人の姿が即座に変化した。


ズズズ……と、粘土が擦れるようなおぞましい音を立てて、業霊武の形は、かつて一刀たちが経験した、最も痛ましい記憶の姿へと変わった。


それは、巨大なガマガエルのような異形――綾と千代の命を奪った、あの忌まわしき悪魔の姿だった。


「アイツは……俺が倒したはず!」


一刀は、過去の悲劇を思い起こさせるその姿に、激しい動揺を隠せなかった。


その業霊武を目の当たりにした静は、あまりにも残酷な事実、そして乗り越えたはずの悪夢の再来に、精神的な限界を迎えた。


「あぁ……」


静は、目眩めまいと共にその場に崩れ落ち、意識を失ってしまった。彼女の精神は、童流の言葉と、目の前の業霊武の姿によって、完全に破壊されてしまった。


静が意識を失ったのを見て、童流は容赦なく、一刀たちが犯した致命的な勘違いを指摘した。


「これは仲間の悪魔の所有物だけどね」


童流は、業霊武が、特定の悪魔の支配下にあることを明かした。そして、あの忌まわしきガマの正体について、冷徹な真実を突きつけた。


「あんたが倒したと思っているこれは、土塊。現にこうやって何度も復活するわ。操っている悪魔が死なない限りね」


童流の言葉は、一刀の必死の戦いと、その後の安堵が、すべて無駄な勘違いであったことを意味していた。


「めでたいわね、土塊崩して勝った気になってたなんて」


そして、核心的な事実を問うた。


「――湧き出なかったでしょ? あなた達人間が喉から手が出るほど欲しがっている山ほどの財宝が」


悪魔を倒せば、その難儀の残滓として財宝が湧き出すという刀司の常識。あの時、ガマを倒したにもかかわらず財宝が出なかったのは、本体である悪魔を倒していなかったからに他ならない。


「そうか……」


一刀は、童流の言葉で全てを理解した。


「倒すので精一杯で、気づきもしなかった」


衝撃的な真実に、一刀は顔を歪ませたが、今は戦う時ではないと判断した。彼は刀を収め、地面に倒れた静へと駆け寄り、その体を抱きかかえて介抱し始めた。


童流は、一刀たちが静の介抱と真実の整理に時間を割いているのを見て、興味を失った。


「もういいかしら? さすがに飽きてきたわ。あなた達もお腹空いた頃じゃないの? 解放してあげるわ」


彼女は、勝利宣言のように立ち去るそぶりを見せたが、松本が激しく抵抗した。


「ふざけんな! てめえがその気でも、こっちはてめえの命とるまでは、ここを動かねえぞ」


睡蓮も、冷徹にその必要性を訴えた。


「右に同じだ。お前のような脅威を野放しにしておくことわりはない」


「そう……。なら仕方ないわね」


童流は、にやりと悪意に満ちた笑みを浮かべると、次の瞬間、豹変した。


「わーん! 怖いよおぅ、美和あぁぁぁっ!」


甲高く、幼い、悲痛な泣き声が、異人館の静かな庭に響き渡った。


「はっ?」


一刀たち一同は、あまりの変わりように呆気にとられた。


その声を聞き、屋敷の奥より、メイド服の若い娘が、血相を変えて、屈強な屋敷の用心棒とも言える使用人を伴って飛び出してきた。


「どう致しました! シズルお嬢様!」


メイド服の娘――美和は、童流(シズルお嬢様)をきつく抱きしめながら、一刀たちを睨みつけた。


「そいつは悪魔だぞ、わかってんのかお前ら!」


「確かにシズルお嬢様は、悪魔のように魅力的で可愛いお嬢様ですが、悪魔などという恐ろしい生き物では御座いません」


美和は、松本の言葉を皮肉と褒め言葉にすり替え、完全に童流を庇った。


「わーん。恐かったよう、美和ぁ。この人たち私をさらおうとして、刃物で脅すんだもん!」


童流は、美和の腕の中で、役者顔負けの演技を続けた。その言葉に、睡蓮はとっさに鎌を引っ込めた。一般人の前で神具の鎌を見せれば、大問題になるからだ。


「とにかく、お引き取りなさらないのなら、警察を呼ばしてもらいます。あなた達、顔は覚えましたからね」


童流の完璧な芝居により、一刀たちは完全に悪役に仕立て上げられ、手出しができない状況に追い込まれたのだった。


美和の腕の中で安全を確保した童流は、美和たちには聞こえないように、一刀たちに向かって嘲りのサインを送った。


彼女は、声を出さず、唇だけを動かして、ばーか、あほーと罵り、舌を出して「あっかんべー」をした。


松本は、その決定的な侮辱に怒りの限界を超えた。


「てめえ!」


彼は眉間に深い筋を立て、拳を突き立てて再び飛びかかろうとした。しかし、その松本の腕を、一刀が素早く掴み、制止した。


(止めろ、鞍馬!)


一刀は、ここで手を出せば、完全に童流たちの思う壺となり、警察沙汰になってしまうことを理解していた。


睡蓮もまた、鬼のような形相で童流を睨みつけたが、理性によって鎌を握る手を固くこらえるしかなかった。


美和の後ろに控える屈強な使用人たちは、いつでも襲いかかれる「やんのか」モードで、一刀たちを睨みつけていた。


童流シズルは、美和の腕の中で、勝利の笑みを浮かべていた。彼女は、戦闘力だけでなく、知恵と状況判断においても、刀司たちを完全に上回ったのだった。


一刀たち一行は、静の介抱という緊急の課題と、一般人を巻き込むリスクを前に、この屈辱を飲み込むしかなかった。


美和は童流をあやしながら優しくも厳しく諭した。


「ダメですよ。シズル様。お外は危険がいっぱいなんですから。あなた様に何かあったら、お館様に顔向けできないんですから。わかりましたか?」


童流は、まるで本当の幼い令嬢であるかのように、従順な態度で答えた。


「うんうん、ごめんなさい」


美和は、一刀たちを軽蔑の眼差しで見遣りながら、童流を屋敷の中へ促した。


「中で温かい紅茶とクッキーでも召し上がってください。もう、あんな野蛮な方たちとは、くれぐれも関わりなきよう」


美和は、一刀たちを侮辱しつつ、シズルお嬢様を屋敷の奥へと連れて行った。屈強な男たちも、獲物を見送るかのように一刀たちを睨みつけながら、門を閉ざした。





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