遊び
松本が無様に叩きつけられたのを見て、童流はさらに追撃の言葉を放った。
「無いアタマ使うのも乙な物よ。明日、頭痛に気をつけてね、色んな意味で」
彼女は、松本が頭を打ったことと、彼が知恵を使わないことを同時に嘲笑した。
「最も、あんたの頭じゃ筋肉痛だろうけど」
童流の冷酷な皮肉は、一刀たちを無力化し、精神的にも優位に立つことを目的としていた。
松本の無謀な突進が完全な失敗に終わったのを見て、睡蓮は、冷静な判断を下した。
「ダメだ。このままでは、一人ずつ消耗させられる。策を練ろう」
睡蓮は、業霊武という予測不能な力が、闇雲な突撃を許さないことに苛立ちを覚えた。
一刀も、短刀を握りしめたまま、苦渋の決断をした。
「闇雲に飛び込めない。あの土塊が、あまりにも邪魔だ」
童流は、業霊武の能力に心から満足している様子で、一刀たちにその正体を説明した。
「便利でしょ、業霊武って言うの。従順なペットみたいなもの。わかる?ペットって。愛玩動物みたいなものよ」
彼女の言葉は、難儀を道具として扱う傲慢さに満ちていた。
一刀は、敵の正体を知るため、冷静に問いかけた。
「お前の名は?」
童流は、自分の名に興味を持たれたことに優越感を抱いた。
「あ、気になっちゃう? おませなガキねぇ。教えてあげましょうか」
彼女は、子供らしい無邪気さと悪魔のような冷淡さを混ぜ合わせた感情で、自分の正体を明かした。
「本当の名前は童流。ここでは――」
彼女が名乗りを上げようとした瞬間、一刀はその言葉に引っかかった。
「本当?……どういうことだ?」
一刀の問いかけは、「童流」という名前が、彼女の真の素性を隠している可能性を示唆していた。
童流は、その核心を突く一刀の思考を、再び嘲笑した。
「さあね。考えてご覧なさい。無いおつむで」
童流が名前の謎かけで一刀たちを嘲っているその隙を、睡蓮は見逃さなかった。
「一刀、悪魔の名前なんて必要ない。消し去るのみだ!」
睡蓮は、言葉で牽制し、その言葉が終わるか否かのうちに、神具の鎌を構えて童流の喉元に襲いかかった。彼女の純粋な殺意と速度は、会話の流れから予測できるものではなかった。
童流は、不意を突かれたが、すんでのところで体を捻り、鎌の斬撃を回避した。彼女の回避能力もまた、並外れたものだった。
童流は、自分の想定外の速度を見せた睡蓮を見て、警戒心と感嘆を覚えた。
(コイツ……アレなしで、ここまでの速さ……)
そして、睡蓮の基礎的な戦闘能力の高さを認めざるを得なかった。
(コイツだけは、面倒かもね。後で、我邪丸にでも始末させるか)
童流は、睡蓮を危険な存在としてマークし、自分で手を下す手間を省くため、仲間である我邪丸を唆す事を決めた。
童流は、睡蓮の奇襲を回避すると、再び余裕の表情を取り戻した。彼女は、戦うことよりも、彼らを精神的に揺さぶることに優越感を抱いていた。
「今更だけど……」
童流は、誰もが抱いていたであろう疑問を、わざわざ口にした。
「何で私から攻撃しないか、わかる?」
そして、彼女は問いかけの対象を、戦闘に加わっていない静に向けた。
「はい、そこのお嬢さん」
突然、自分に振られた静は、再び戸惑いに襲われた。
「わ、私?」
童流は、静の戸惑いを見て、楽しそうに皮肉を言った。
「暇でしょ。あんたの仲間たちが何が楽しいのか、蠅みたいにぶんぶん私に纏わりつく間、ぼけっと阿呆みたいに口開けて見てなきゃならないんだから」
童流の挑発的な問いかけを無視し、叩きつけられた衝撃から立ち直った松本が、再び睡蓮と連携して攻撃を再開した。
松本は怒号を上げ、睡蓮は無言の殺意を放ち、童流に迫った。
童流は、業霊武の土塊の壁を瞬時に展開させながら、二人の猛攻を軽やかにいなし、反撃の拳や土の鞭で二人を押し返した。
「遅いって言ってるでしょ? わからないの?」
童流は、戦闘を継続しながら、静にプレッシャーをかけた。
「――ほら、とっとと答えなさいよ、お嬢さん」
静は、極度の緊張と仲間への心配から、震える声で、彼女なりに出した答えを口にした。
「それは……あんたが、とてつもなく強い悪魔だから」
静の答えを聞き、童流は冷めた笑みを浮かべた。
「一割ぐらいの正解ね」
彼女は、守り人の限界と、指導力の欠如を侮蔑した。
「ガーディアンもダメなら、その元締めもダメってわけね。なら教えてあげる」
童流が明かした真の理由は、悪魔ならではの、冷徹で非情な論理だった。
「悪魔は殺されなきゃ、永遠に生きるのよ。永遠にね」
彼女は、自分の永遠性と刀司たちの有限な命を対比させた。
「何も馬鹿で汚い蠅を追い回して、わざわざ手を汚すなんて、滑稽以外の何物でもないわ」
童流は、睡蓮と松本の攻撃を完全に無視するかのように、自分の理論をさらに突き詰めて語った。
「待ってれば死ぬのよ。勝手に老いて」
彼女は、時間という概念が、人間と悪魔の間でどれほど意味が異なるかを、冷酷に突きつけた。
「たかだか五十年くらいで。そのくらい待つのなんか、どうって事ないわ、悪魔にとってはね」
永遠の時を生きる悪魔にとって、人間の寿命など瞬きに等しい。童流は、彼らをわざわざ殺す必要もないと、究極の侮蔑を言い放った。
「待ってれば死ぬのよ。勝手に老いて」
彼女は、時間という概念が、人間と悪魔の間でどれほど意味が異なるかを、冷酷に突きつけた。
「たかだか五十年くらいで。そのくらい待つのなんか、どうって事ないわ、悪魔にとってはね」
永遠の時を生きる悪魔にとって、人間の寿命など瞬きに等しい。童流は、彼らをわざわざ殺す必要もないと、究極の侮蔑を言い放った。
彼女にとって、刀司たちとの戦いは、存在の格差からくる時間の無駄であり、彼らの老いや死を待つことこそが、最も効率的で確実な勝利を意味していた。




