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揶揄い(からかい)

童流どうるが、異人を異人館へと案内し終え、神戸の裏路地へと戻ると、そこには彼女の仲間である大柄な男が立っていた。

我邪丸がじゃまる。彼は、力強い体躯と、どこか野蛮な雰囲気を持つ男だった。


「どうだった?」


我邪丸は、一刀たち一行の評価を求めた。

童流は、肩をすくめ、無関心な様子で答えた。


「どうってことはないわ。つまらない連中。あんな連中に、わざわざバフォメットが何もしなかったこと、今ならわかる。同感よ」


童流は、一刀たちの外見などから実力を過小評価していた。彼女にとって、彼らは難儀を討つに値しない、取るに足らない存在に見えたのだ。


我邪丸は、童流の冷めた評価を聞いて、次の行動を尋ねた。


「じゃあ、生殺しにでもするのかい?」


彼らが、一刀たちの行動を監視し、場合によっては排除するつもりであったことが伺える。


「そうねぇ……」


童流は、鋭い目を細め、遠くを見つめた。


揶揄からかうぐらいなら、いいかしら」


彼女は、一刀たちを真剣に相手にする価値はないと判断し、難儀の蓋を巡る熾烈な争いを前に、ゲームのように彼らを弄ぶことを選んだのだった。


童流は、一刀たちを揶揄うことを決めると、背後に控えていた土塊のような存在に目を向けた。


その土塊は、まるで人間のような姿をしており、童流はそれを奴隷のように冷たく扱っていた。


童流は、この異形の存在を「業霊武ゴレム」と呼んでいた。それは、悪魔の『業』と土や肉塊を組み合わせて造られた、難儀の使い魔のようなものだった。


「行くわよ」


童流は、一体の業霊武を従え、新たな目的のために、神戸の街の影へと消えていった。


一方、一刀たちは、情報収集の結果、源兵衛が持ち去った難儀の蓋が、ある重要な人物の手に渡った可能性を探っていた。


その人物は、長崎奉行の家臣の一人で、現在は神戸に暮らしているという有力な商人だった。彼らは、その男が住むというひときわ大きく、華麗な洋式の屋敷へと向かった。その屋敷こそが、神戸の異人館の一つだった。


一刀たちは、その異人館の門前に立った瞬間、冷たい視線を感じた。


屋敷の石畳の上で、童流と、彼女が連れていた業霊武ゴレムが、ちょうど彼らを待ち構えるように立っていた。


童流は、つまらなそうな表情で、一刀たちを迎え入れた。


「ようやく来たのね、間抜けな連中さん」


一刀たちが異人館の門前に到着すると、童流は、まるで古い知り合いにでも会ったかのように、笑顔で話しかけた。


「また逢えるとは思わなかったわ。間抜けでも方向音痴ではないみたいね」


静は、異人館という緊張感のある場所での再会に、警戒心を露わにした。


「誰ですか! あなたは!」


童流は、静の反応の鈍さを嘲笑うように、皮肉な言葉を投げつけた。

「あら? もうお忘れ? 間抜けな上に記憶力も劣るお馬鹿さんだったのね」


彼女は、港での出来事を、鮮明に、そして意地悪く再現した。


「港であったじゃない。異人さんに変な日本語使ってたお嬢さん。笑っちゃうわよ、気の毒すぎて笑えなかったけど」


童流の冷酷な嘲りに、一刀の瞳の色が変わった。この少女は、難儀に関わっているだけでなく、意図的に彼らを侮辱している。


「悪魔だな。排除する」


一刀は、光の短刀を抜き、殺気を童流に向けた。

童流は、一刀の殺気を受けながらも、表情一つ変えなかった。彼女は、一刀の威嚇を、心底つまらない冗談だと思った。


「笑わせないでって言ってんでしょう? でも、笑えないジョークね」


童流は、一刀たち一行の構成を、子供の遊びのように揶揄した。


「あんたたちに排除されるほど、間抜けじゃないし、弱くもない」


童流は、彼らの姿をユーモラスな例えで嘲った。


「タコとイカが雁首がんくび揃えて粉もんでも作るつもり? やめてよね」


童流の侮辱的な言葉に、松本の短気な怒りが爆発した。


「じゃあ、てめえが食材にでもなりやがれ、悪魔娘!」


松本は、容赦なく拳を固め、童流に向けて殴りかかった。

しかし、童流は、子供とは思えない機敏さで、その一撃を軽々と躱した。


「いきなり野蛮ね。日の本では、幼い女の子に殴りかかる風習でもあるのかしら?」


童流が皮肉を口にした、その言葉が終わるか否かのうちに――


睡蓮が、松本とは比べ物にならない速さで、童流の側面から神具の鎌で斬りかかった。睡蓮の冷徹な殺意は、松本の怒りとは次元が違った。


だが、鎌が童流に届く直前、石畳がまるで生きているかのように盛り上がり、分厚い土塊つちくれの壁となって、睡蓮の鎌の斬撃を見事に阻止した。


「なんだ、これは?」


睡蓮は、神具の力を込めた一撃が、ただの土の壁によって止められたことに、驚愕の表情を浮かべた。


童流は、業霊武ゴレムの力に守られ、勝ち誇ったように彼らを見下ろした。


「野犬どもには躾が必要かしら? ムダって言葉、知ってる?」


彼女は、一刀たちの攻撃を鼻で笑った。


「言ってもわからないでしょうけど、日の本の野犬じゃ」


土塊の壁によって攻撃を防がれた一刀は、童流の戦闘経験を瞬時に見抜いた。


(闘い慣れしてる……まともな刀司の攻撃では、無理か?)


一刀が次の一手を思案する中、童流は容赦なく彼らを精神的に追い詰める言葉を浴びせ続けた。


「あんたたち、本当にガーディアン? ここでは刀司って言ったかしら? 何も知らないのね」


童流は、日本の刀司たちの古風な戦い方を、傲慢に批評した。


「脳が筋肉で出来てるのかしら? 好きだもんね、この国は根性とか精神とか」


童流は、侍の精神を重んじる刀司たちを明確に見下していた。


「よく喋る野郎だな、二度ときけなくしてやんよ!」


松本は、侮辱的な言葉に激昂し、童流に向かって再び突進した。

しかし、その瞬間、松本が先ほど殴りつけた、業霊武ゴレムが作り出した土塊の壁が、まるで生き物のように形を変えた。

分厚い土塊は、巨大な手の形となり、松本の体をガッシリと掴んだ。


「な、なんだと……!」


松本は、その巨大な手の力から逃れることができず、次の瞬間、童流の指示によって遠くの建物に向けて投げ放たれた。


松本の体は、無様な放物線を描き、異人館の石畳の上に激しい音を立てて叩きつけられた。




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