031・グレートスケルトン
慌てて窓から外を見る。
すると、早朝の朝靄の中、道の先に、2メーガン以上の巨大な骸骨が5体ほど立っていた。
人型に見えるけど、腕は4本。
その手には、分厚い曲刀が握られていて、朝の陽光に鈍く妖しい光を反射していた。
「スケルトンか」
ナルパスさんが低く呟く。
そのまま彼女は竜車を降りて、「聖女様に近づけるな! すぐに片付けろ!」と、その場の騎士たちに毅然と指示を出した。
『おおっ!』
5体のスケルトンに対して、周りにいた騎士さんたちが馬を走らせ、挑みかかっていく。
もう1台の竜車からは、神官さんたちが何人か降りてくる。
その神官さんたちは、両手を合わせて何か呪文を唱えると、僕らの竜車の周りに薄く光る膜のような物が張り巡らされた。
(魔法の結界かな?)
5体のスケルトンは、騎士さんたちを相手に4つの腕を振り回す。
ガガン キィン ギャリィン
激しい火花を散らしながら、戦いが続く。
その時、騎士さんたちの剣がスケルトンの腕を砕き、肋骨を折った。
ベキベキ
けれど、それは時間が巻き戻ったみたいに回復して、壊れた骨は元通りになってしまう。
ケティ様が瞳を細める。
「どうやら、物理攻撃では効き目が薄そうですね」
そう呟いた。
ナルパスさんは「ちっ」と舌打ちして、剣を抜く。
何事かを呟きながら、その刀身に指を這わせると、そこに魔法文字が浮かびあがって剣全体が光を放ち始めた。
「魔力を付与した魔法剣だわ」
アイネが目を見開く。
ナルパスさんは素早い動きでスケルトンの剣をかわし、その懐に飛び込むと、
「はっ!」
ザキュッ
その光る剣で、スケルトンの2本の腕を切断した。
斬られた箇所には、光が残って、そこの骨は元通りにならない。
他の騎士さんたちも、ナルパスさんと同じように剣を光らせて、他のスケルトンたちを攻撃していった。
…………。
状況は、騎士さん有利。
(このままなら、勝てそうだ)
ちょっと安心。
緊張していたアイネの身体も、少しだけ力が抜けたみたいだった。
でも、その時、
(ん?)
スケルトンがいるのとは反対側の朝靄から、突然、更に大きな3メーガン以上もある巨大スケルトンが姿を見せた。
「わっ!?」
思わず声をあげちゃった。
そんな僕らの竜車目がけて、巨大な曲刀が振り下ろされる。
バヂィイン
それは、神官さんたちが張った『魔法の結界』に弾かれて、そこに強い光の火花を散らした。
でも、凄い迫力。
「ひいっ」
アイネも悲鳴をあげて、僕にしがみついて来る。
気づいたナルパスさんがこちらに来ようとするけれど、スケルトンたちに邪魔されていて、なかなか来られない。
バヂッ バヂィン
その間にも、巨大スケルトンの攻撃は続き、結界は壊れてしまいそうだった。
それを見たケティ様は、
「仕方がありませんね」
小さな吐息を1つこぼして、席を立とうとした。
でも、その前に、
「僕が行きます」
そう言って、先に立ち上がった。
ケティ様が「え?」と呟き、アイネが「ユアン!?」と叫ぶ声を聞きながら、ピョンと竜車を降りる。
(さて……っと)
ミシミシ
自分の『白い木の右腕』を軽く回す。
僕にとって大事な人たちを傷つけようとする存在は、この右腕でやっつけてやるんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
魔法の結界は、内側からは普通に出られた。
そのまま巨大スケルトンに近づくと、向こうもこちらに気づいて、その巨大な曲刀の1つを振り下ろしてきた。
メキキッ
肘に『白い円形盾』が生え、その攻撃を受け流す。
ガギギッ ドォン
逸らされた攻撃は、僕のすぐ横の地面に叩きつけられ、激しい土埃が待った。
巨大スケルトンの視界から、僕の姿が隠される。
そして次の瞬間、土埃の中から、長く伸ばされた『白い木の右腕』が近くの木の枝を掴んで、僕の身体は振り子となって、ヒュンッと空中に跳んだ。
巨大スケルトンが慌てて振り向く。
けど、その時には、僕の右腕はまた別の木を掴んで、更に空中を移動する。
ヒュン ヒュン
巨大スケルトンは4つの曲刀で闇雲に攻撃してくるけど、全然、僕には当たらない。
そして、
ヒュン
その素早さに巨大スケルトンは僕を見失い、その時には、僕の小さな身体は、巨大スケルトンの真上の空中へと跳んでいた。
腕の長さを戻し、手から『白い小剣』をメキメキと生やす。
光る剣先を逆手に構えて、
「えい!」
ゴパァアン
空からの攻撃に、巨大な頭蓋骨が弾け飛び、僕の落下に合わせて骨の身体が砕け散っていく。
その反動で、僕は難なく着地。
足元にはバラバラになった巨大スケルトンの残骸があって、けれど、光る『白い小剣』の攻撃だったからか、その骨が再生することはなかった。
(……よし)
内心で拳を握る。
それから大きく息を吐いた。
気がついたら、他のスケルトンは全て騎士さんたちに倒されていて、ナルパスさん、騎士さん、神官さんたちがみんな僕を驚いたように見ていた。
その視線にギョッとする。
(ええっと……)
考えたら、あまり人前で見せていい力じゃなかったかもしれない。
でも、僕を見る目には、怖がったり、気味悪がったりといった悪い感じのものは1つもなくて、むしろ驚いたり感心したような眼差しばかりだった。
ナルパスさんは、
「グレートスケルトンを1撃とは……なるほど、これが『聖なる御子』の力か」
と呟いていた。
そんな中、
「ユアン~!」
竜車を降りたアイネが僕に駆け寄って、抱きついてきた。
(わっ?)
慌てて受け止める。
よしよし、と、その赤毛の髪を撫でた。
遅れてケティ様も降りてきて、その黄金の瞳で足元のバラバラの骨を見て、それから僕を――正確には、僕の『白い木の右腕』を見つめた。
小さく頷き、
「ユアン様の『世界樹』は、思った以上に、ユアン様の肉体に深く根付いていたみたいですね」
そう微笑みながら呟いた。




