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白い木の右腕のユアン  作者: 月ノ宮マクラ


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027・白樹の婚約

(……え、伴侶?)


 その意味に気づいて、僕は目を丸くする。


 ケティ様はそんな僕に気づいて、優しく微笑み、


 ギュッ


 まるで我が子にするように、その両手を広げて僕の身体を抱きしめたんだ。 


(はわわ……?)


 突然のことに、僕は固まっちゃった。


 ケティ様の身体は柔らかくて、温かくて、とってもいい匂いがした。


 なんか動けない。


 ケティ様は、混乱する僕の心を宥めるように『よしよし』って感じで背中を撫でてくれる。 


 と、その時、


「は、伴侶ってどういうことですか!?」


 僕の代わりみたいに、アイネが焦ったように叫んだ。


 ア、アイネ……。


 彼女は涙目だった。


 ケティ様は驚いたように彼女を見て、それから何かに気づいたように「なるほど」と呟き、そして微笑まれた。


 僕の身体を離す。


 今のアイネの行動は、かなり失礼なものだったかもしれない。


 でも、ケティ様は怒らなかった。


 ナルパスさんは何かを言いたそうだったけれど、それもケティ様が視線で止める。


 ケティ様はアイネを見つめて、


「言葉通りの意味です。私は、このユアン様に結婚を申し込みました。正確には、そうしなければいけない理由があるので、結婚しようとしているのですが」


 と答えた。


(そうしなければいけない理由?)


 何それ?


 アイネも「理由って何ですか?」って聞いた。


 ケティ様は少し考え、


「そうですね。理由はいくつかあるのですが、その中でも最もわかりやすいものは、私とユアン様が『同じ存在』だからでしょうか」


 とおっしゃった。


(同じ存在?)


 僕とアイネは、ケティ様を見つめてしまった。


 彼女は微笑む。


 それから僕らから離れて、最初に座っていた椅子へと戻って、ゆっくりと腰かける。


 そして、靴を脱いだ。


(え?)


 驚いている間にも、彼女は、もう片方の靴も脱ぐ。


 白い素足が見えた。


 ……あ。


 それに気づいて、僕は驚いた。


 そんな僕の前で、ケティ様は手を伸ばし、はしたなくも長い神官衣の裾をまくり上げて、太ももの辺りまでをあらわにしたんだ。


「これです」


 ケティ様は言った。


 そんな彼女の見せてくれた両足は、白い木の枝が絡まってできた『白い木の両足』だったんだ。


 僕もアイネも、言葉がない。


 白い木と生身の足は、太ももの真ん中で融合していた。


 キシ……


 ケティ様は右足を軽く持ち上げ、足首を揺らす。


「御2人がご存じかはわかりませんが、7年前、アシュトレイン帝国でカレドア大震災と呼ばれるものがありました。その時に、私の両足は瓦礫に潰されたんです」


 ……聞いたことある。


 僕が小さい頃、帝国でとっても大きな地震があったって。


 たくさんの人が亡くなったって。


 ケティ様は瞳を伏せる。


「私の暮らしている町でも、多くの死者が出ました。その場で、私以外に生き残った者はいませんでした」

「…………」

「…………」

「そして、その時、死にかけていた私の前に『輝月の天使』が降臨されました」


 輝月の天使?


 僕はふと、僕が右腕を失った夜のことを思い出した。


 ケティ様は言う。


「天使は、私の両足に『世界樹の種』を埋め込みました。そこから生えたのが、この『世界樹の足』になります」


 キシリ


 その足が揺れ、白く滑らかな表面が輝く。


 彼女の視線が、僕を見た。


「ユアン様がその『世界樹の右腕』を与えられたのも、同じような状況だったのではありませんか?」


 そう聞かれた。


 僕は頷く。


 お父さん、お母さんのことを思い出して、少し心が痛い。


 ケティ様は「やはり」と頷いた。


 でも、その表情には、何かの痛みに耐えているような悲しみがあって、彼女も僕と同じ痛みを知っているんだなって思った。


 ケティ様は、まくっていた神官衣を直す。


 靴を履きながら、


「このような『世界樹の肉体』は、大きな力を秘めています。それは、この世界に大きな影響を及ぼしてしまうほど……個人にとっては、あまりにも強大な力です」


 コンコン


 つま先が床を叩く。


「今後、ユアン様の力を狙ってアシュトレイン帝国、領国グレイブ政府、ルナティア教会、他4つの領国、様々な人々が動きだします。もはや、その流れは変えられません」

「…………」

「…………」


 そうしてケティ様は、僕を見た。


「その流れによって、それこそ、ユアン様の人生は簡単に狂わされてしまうことでしょう」


 淡々とした口調。


 だからこそ強い真実味を宿して、その声は響いた。


 ケティ様の視線が、アイネを向く。


 アイネはビクッとした。


「私がユアン様と結婚しようとしたのは、同じ力を持つ者として、ユアン様を守りたいと思ったからです。私には、それが可能ですから」


 ケティ様は微笑んだ。


 それでもアイネは「でも、結婚なんて……」と呟いた。


 それを聞いて、


「私が所属する教会も一枚岩ではなく、派閥があるのです。ユアン様を、私個人の庇護下に確実に収めるためには、婚姻関係が最も確実なのですよ」


 とケティ様。


 僕は少し考えた。


 そして、素直に思ったことを聞いてみる。


「どうしてそこまでして、ケティ様は、僕を守ろうとしてくれるんですか?」


 それが不思議。


 結婚って、人生においてとっても大切なことだと思うんだ。


 それを、会ったこともない僕を守るためにしようだなんて、本当にケティ様はそれでいいの? って心配になっちゃう。


 僕の視線に、ケティ様は驚いた顔をする。


 それから微笑んだ。


「ユアン様は優しいですね」

「…………」

「はっきり申しあげれば、打算もあります。ユアン様を守る代わりに、その『世界樹の力』を私のために使ってもらおうと考えています」


 ケティ様のために使う……?


 僕は首をかしげる。


 彼女は、その手で自分の胸元を抑えて、


「私のように5つの領国に派遣された『聖女』は、皆、『世界樹の肉体』を持っていて、とある役目を与えられているのです。ユアン様には、その手伝いをして頂きたい」


 と言った。


(とある役目って何だろう?)


 そう見つめると、 


「それは、ユアン様が了承したあとにお教えしましょう」


 そうはぐらかされた。


 ……むぅ。


 僕の不満を感じたのか、ケティ様は困ったように笑った。


「そうですね。……では、世界平和のための戦い……とだけ申しあげておきましょう」


 何それ?


 でも、ケティ様の瞳にあるのは意地悪じゃなかった。


 むしろ、それ以上を踏み込むには、覚悟がいるんだよって教えてくれているみたいだった。


「ユアン……」


 アイネが不安そうに僕を見ている。


(う~ん?)


 世界平和……か。


 それはもしかしたら、僕の大事な家族、アイネやみんな、院長先生を守ることにも繋がるのかな?


 もし、そうなら……。


 僕はケティ様を見る。


 ケティ様の黄金の瞳は、揺らぐことなく、ただ僕の眼差しを受け止めた。


(うん)


 僕は頷いた。


「わかりました。ケティ様の伴侶になります」

「ユアン!?」


 アイネが悲鳴のような声をあげる。


 けれど、ケティ様は嬉しそうに微笑み、頷かれた。


「私を信じてくださり、ありがとうございます、ユアン様。このケレスティア、その信頼を裏切らず、ユアン様をお守りすることを『輝月の女神』の名の元に誓いますわ」


 そう言って立ち上がり、


 ギュッ


(わっ?)


 また僕のことを抱きしめてくれた。


 アイネはオロオロしている。


 ケティ様は、至近距離から僕を見つめ、


「とはいえ、ユアン様はまだ未成年ですので、しばらくは婚約という形で進めさせていただきますね」

「うん」


 難しいことはお任せします。


 頷く僕に、ケティ様も頷いた。


 それから、ナルパスさんを振り返って、


「ナルパス、話は聞きましたね。ユアン様の言は貴方も証人となり、今後は、他の者とも連携して手筈通りに事を進めてください」

「はっ」


 黒髪の女騎士さんは凛とした声で返事をした。


 命じられたことをするためか、彼女は部屋を出ようとして、


(?)


 でも、その足が止まった。


「ナルパス?」


 ケティ様も怪訝な顔をする。


 するとナルパスさんは振り返って、


「1つだけ忠言を。――ユアン殿の好意を得たいという気持ちはわかりますが、あまりやり過ぎると逆効果になりかねませんよ? ご注意ください」


 と言った。


 ケティ様は「え?」と呟く。


 抱きしめる僕を見下ろし、その顔が真っ赤なのに気づく。


「…………」


 まるで伝染したように、ケティ様も赤くなった。


 コホン


 小さく咳払いして、僕を離す。


 そしてナルパスさんの方を見て、「早く行きなさい」と命令する。


 黒髪の騎士さんは「失礼しました」と小さく笑いながら一礼して、それから部屋を出ていった。


 ポカンとしていると、


「……どうか気にしないでください」


 ケティ様はそう言って、少しだけ気恥ずかしそうに赤くなった顔を逸らしたんだ。

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