026・聖女との対面
「私の名は、ナルパス・クルートンだ」
黒髪の女騎士さんは、そう名乗った。
年齢は若くて、まだ20代かな?
女の人にしては背が高くて、立ち姿も凛とした格好いい人だ。
領国グレイブでは珍しい黒髪なので、もしかしたら、アシュトレイン帝国の神国領からこっちに来た人なのかもしれない。
ナルパスさんは、僕らを先導して歩く。
教会にいた神官さんや警護の騎士さん、兵士さんたちが彼女を見ると道を譲って、頭を下げている。
(…………)
もしかして、偉い人?
その視線に気づいたのか、
「これでも私は『グレイブの聖女』の筆頭護衛騎士でな。神国領では貴族としての爵位も持っている。まぁ、聖女様の付き人の1人と思ってくれ」
と説明してくれた。
……うん、やっぱり偉い人だ。
アイネは緊張した顔で、
「あ、あの……聖女様がユアンに会いたいっていうのは、やっぱり本当なんですか?」
「うん?」
その問いかけに、ナルパスさんは振り返る。
それから、
「そうだな。あの方は、私たちに見えないものを視ている。その目に、ユアン殿の姿が留まったのは事実のようだ」
と頷いた。
僕とアイネは顔を見合わせる。
お互い困惑した顔だ。
そんな僕らに、ナルパスさんは笑った。
「そんなに心配する必要はない。あの方は優しい方だ。失礼なことさえしなければ、何も問題はないだろう」
「…………」
「…………」
もし知らずに失礼なことしちゃったら、どうなるんだろう?
……田舎者だから、とっても心配だよ。
…………。
そうして僕らは『東都の教会』の中を歩いていく。
村の教会とは違って、全てが石造りで大きくて、壁や柱にも装飾が施されていたり、大きな女神像があったり、すっごく広くて立派な建物だった。
やがて、小さな部屋に通される。
そこで、僕とアイネは湯浴みをさせられ、旅の汚れを落として、服も着替えさせられてしまった。
(石鹸なんて久しぶりだよ……)
おかげで、僕もアイネもちょっといい匂いだ。
つい2人で笑い合っちゃう。
それから『ホーンナイフ』や他の荷物も預けることになって、ようやく僕らは聖女様に会うことになった。
◇◇◇◇◇◇◇
ナルパスさんに案内されて、僕とアイネは、とある客間に通された。
客間の前には、強そうな騎士さんたちが2人立っていて、ナルパスさんと話して、ようやく中に入ることができた。
広い部屋だ。
清潔で上品な雰囲気の部屋で、正面には女神ルナティアの像を飾った祭壇があった。
その前には椅子があって、そこに1人の女の人が座っている。
(…………)
まるでその人自身が光っているみたいに思えた。
白を基調とした、ちょっと高級な神官服を身につけた20歳ぐらいのとっても綺麗な女の人だった。
薄紫色の長い髪。
整った白い顔には、黄金色の瞳が輝いている。
まるでお人形さんみたいで、それぐらい浮世離れした雰囲気をまとっていた。
一目でわかった。
(……うん、この人が聖女様だ)
そう確信する。
そんな僕の前で、ナルパスさんが跪いた。
「ケレスティア様。ユアン殿、付き添いのアイネ殿をお連れしました」
「ご苦労様」
答える声は、とってもたおやかだった。
そして彼女は、音もなく立ち上がると、僕の前へとやって来て、床に膝をついて視線の高さを合わせてくれた。
ちょっと見つめ合う。
そして、
「初めまして、ユアン様」
と微笑んだ。
まるで花が咲いたのかと思うような笑顔だった。
部屋の空気が、フワッと柔らかくなった感じ。
「私は『グレイブの聖女』を務めておりますケレスティア・アシュトラスです。長ければ、どうかケティとお呼びくださいね」
聖女様――ケティ様は、そう言った。
その綺麗な顔を見つめていると、
トン
そんな僕の脇腹を、アイネの肘が軽くつついた。
(あ)
僕は慌てて、
「は、初めまして。僕はユアンです」
と答える。
ケティ様は笑みを深くして、薄紫色の長い髪を揺らしながら頷いた。
アイネも挨拶する。
それからケティ様は、
「ユアン様。初対面で不躾ではありますが、その右腕をお見せ頂くことはできますか?」
って聞かれた。
もちろん、僕は頷いた。
自分の『白い木の右腕』をミシミシと動かして、ケティ様の正面まで持ち上げる。
「…………」
それを見つめていたケティ様は、その手を白い袖の中に入れられて、再び出てきた時には、その指に小さな鈴が握られていた。
チリーン
澄んだ音が響く。
すると、僕の『白い木の右腕』が突然、それに反応したように淡く発光したんだ。
ナルパスさんが「おお……」と声を漏らす。
ケティさんも、
「やはり……これは世界樹の……」
と、小さく呟く。
(???)
やがて、『白い木の右腕』の発光は収まって、ケティさんも鈴をしまう。
「失礼しました」
彼女は微笑む。
それから立ち上がると、ジッと僕のことを黄金色の瞳で見つめた。
やがて、その瞳を伏せて、
「この『神鈴の音』に反応せしは輝月の福音の証。やはりユアン様は、教会の定める『聖なる御子』であらせられるようですね」
と呟いた。
(聖なる御子?)
僕はキョトンとしてしまう。
アイネは、ちょっと不安そうだった。
ナルパスさんは「では?」と問いかけ、目を閉じていたケティ様は、ゆっくりと頷いた。
その瞳が開かれ、綺麗な黄金色の輝きが僕を見つめる。
そして、
「この『グレイブの聖女』の名に置いて、この者ユアンを我が伴侶とすることを認めましょう」
って言ったんだ。




