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白い木の右腕のユアン  作者: 月ノ宮マクラ


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025・東都ティアソラル

 初めて目にした『東都ティアソラル』の感想は、


(……何、この大きさ……?)


 だった。


 街を囲む城壁は、左右の地平の果てまで続き、まるで巨人のための門が正面にドーンと構えている。


 門を出入りする人や馬車の数も、とんでもない。


 人種も様々で、妖精族って呼ばれているエルフやドワーフ、亜人族って呼ばれてる獣人や竜人も普通に歩いているんだ。


「…………」

「…………」


 その光景に、僕もアイネも口をポカンと開けていた。


 この地方で1番大きな都市だって聞いていたけれど、こんなに大きいとは思わなかったよ。


 乗合馬車の乗客は、慣れているのか動じない人、僕らと同じように驚いたり歓声をあげている人と反応は色々だった。


 やがて、乗降場に到着。


 僕とアイネは、馬車を降りた。


 降りたところも人がいっぱいで、僕らは迷子にならないように、お互いの手をしっかりと握った。


 すると、


「ユアン君、アイネちゃん」


 ガービングさんが、彼らの馬車から声をかけてきた。


「もしよかったら、君たちの目的の場所まで乗せてあげるよ。一緒にどうかな?」


 え、いいの?


 アイネと顔を見合わせる。


 僕らは東都に詳しくないし、こんなに広いんじゃ『東都のルナティア教会』を見つけるのも大変そうだ。


「はい、お願いします」


 僕らは、ガービングさんに頭を下げた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ガービングさんの馬車は、乗合馬車と違って、座席がフカフカだった。


 内装も綺麗。


 そして、なぜか振動も少なくて、これなら長旅でも疲れないなぁ……なんて思ったりした。


 ガービングさんに『教会』に行きたいことを伝えると、


「教会なら、うちの店の近くだね」


 って返事が来た。


 それから「でも、どうして教会に? それも子供2人で?」なんて質問もされた。


 アイネが答える。


「村の教会のお使いです。ちょっとお届け物があって」

「ほう」


 ガービングさんは興味深そうに呟く。


 でも、まさか『お届け物』が僕自身だとは、さすがに思わないだろうね……。


 アイネは、その僕の肩を触って、


「ご存じの通り、ユアンは村でも1番強くって。私も教会の子供で1番年長だったから。だから2人で東都までお使いに来たんです」


 最後に、ニコッと笑顔を見せた。


 ガービングさんは、そんなアイネを「ふむ」と見つめる。


 それから、


「なるほど、2人とも偉いね。――しかし今、『東都のルナティア教会』には『グレイブの聖女』様がいらしているそうだ。そのことは知っているかね?」


 と言われた。


(あ、もう来てるんだ?)


 僕らの方が、あとから到着しちゃったんだね。


 アイネは「はい、知ってます」と笑顔で答えて、ガービングさんも「そうか」と微笑みで応じていた。


 …………。


 窓からの都会の景色を眺めながら、しばらく進む。


 しばらくすると、道の先に兵士が何人も立っていて、いっぱい衝立が並んでいた。


(???)


 何だろうと思っていると、


「ふむ、どうやら『東都の教会』の周辺が封鎖されているみたいだね。きっと『グレイブの聖女』様の警護のためだろう」


 と、ガービングさんが教えてくれた。


 そうなんだ?


 仕方がないので、馬車は道を変えて、そのままガービングさんのお店に向かうことになった。


 やがて、馬車が停まる。


 ガービングさんと一緒に、馬車を降りると、目の前に大きな建物があった。


(うわぁ、お城みたい)


 アイネも目を丸くしていた。


 そんな僕らにガービングさんは笑って、自分は『ウォルコット商会』という組織の会長なんだって教えてくれた。


 アイネは、


「あのウォルコット商会!?」


 って驚いていたから、もしかしたら有名なのかもしれない。


 お店からは何人も人が外にやって来て、「おかえりなさいませ、旦那様」とか「商談、お疲れ様でした」とか言って、みんな頭を下げていた。


 僕とアイネは、立ち尽くしたままだ。


 そんな僕らに気づいて、ガービングさんは笑った。


 それから、かがんで僕と目線の高さを合わせ、


「ユアン君は、うちの商会の大きな損失を防いでくれた恩人だ。私たちで何か力になれることがあったなら、いつでも声をかけていいからね」


 そう言ってくれる。


 思わずといった感じで、僕は「うん」と頷いた。


 ガービングさんはそんな僕とアイネの頭を軽く撫でて、「それじゃあ、また」と笑うと、そのままたくさんの人と一緒にお店に入っていった。


「…………」

「…………」


 しばらく放心してた。


 やがて、アイネと顔を見合わせ、苦笑しちゃう。


「じゃあ、私たちもグレイブの聖女様に会いに行きましょうか」

「うん」


 僕は頷いた。


 それから僕とアイネは手を繋いで、『東都の教会』へと徒歩で向かったんだ。 



 ◇◇◇◇◇◇◇



 さっき見た、道が封鎖されているところまでやって来た。


 兵士さんが3人、立っている。


 僕らが近づくと、


「何だ、ガキども? ここから先は通行止めだ。さっさと帰れ!」


 若い兵士に怒鳴られた。


 僕は驚き、アイネはちょっとムッとする。


 それからアイネが荷物の中から『大教会の手紙』と『院長先生の手紙』を取り出して、


「私たち、聖女様に呼ばれてきたんです」


 って言った。


 若い兵士んさんは「はぁ?」と呆れた顔をする。


 アイネが2つの手紙を渡すと、


「何言ってんだ、お前ら? 大方、聖女様の顔が見たいって来たんだろ。お前らみたいなガキが会えるお人じゃねえんだ。教会の近くで嘘ついてんじゃねえぞ!」


 グシャグシャ


 中身も見ずに、それを丸めてポイッと後ろに放り投げてしまった。


(あ……)


 僕もアイネも唖然だ。


 慌ててその丸められた2つの手紙を拾おうとするも、それは封鎖された内側で、若い兵士さんに「だから入るなって!」と邪魔されてしまった。


 いやいや、


(あの手紙はなくしちゃ駄目って、散々、院長先生に言われてたのに!)


 アイネも「手紙、返して!」って言っている。


 けど、若い兵士さんは取り合ってくれない。


 それどころか、しつこい僕らに怒ったみたいで、


「いい加減にしろ、ガキどもが!」

「あっ!?」


 ドン ズシャア


 アイネが突き飛ばされて、転んでしまった。


 アイネ!?


 僕は慌てて、彼女を支える。


 アイネは涙目だった。


(…………)


 メキッ


 袖の下に隠された『白い木の右腕』が、僕の感情に反応して、小さく軋んだ音を響かせた。


 若い兵士は、


「しっしっ」


 悪びれた様子もなく、手を振ってくる。


 他の2人の兵士も、それを止めるどころか、むしろ僕らに鬱陶しそうな視線を向けていた。


 僕は立ち上がった。


 彼らを睨みながら、そちらに歩こうとして、


「――何をしている!?」


 その寸前、凛とした声が響いた。


 3人の兵士がビクッとした。


 振り返った先には、銀色の鎧とマントをつけた騎士の一団がいて、先頭に立っているのは、短めの黒髪をした女の人だった。


 兵士たちは敬礼し、


「い、いえ、無礼なガキどもを追い払おうとしていたところでして……」


 とアタフタと言った。


 黒髪の女騎士は、「ふむ」と呟きながら僕とアイネを見る。


 鋭い視線。


 でも、その鋭さは、もしかしたら彼女がつり目で、少し目つきが悪いからかもしれない。


「ん?」


 その時、彼女は足元の丸められた手紙に気づいた。


 それを拾う。


「返して!」  


 アイネが叫んだ。


 黒髪の女騎士さんは、こちらをチラッと見て、無言のまま手紙を広げた。


 …………。


 そのつり目が大きく見開かれる。


 表情が険しくなり、すぐに慌てたようにもう1枚も広げて、その手をブルブルと震わせた。


 彼女は、僕らを見る。


「この手紙は、彼らの物か?」

「は、はい」


 若い兵士は、彼女の変化に戸惑いながら頷いた。 


 次の瞬間、


「馬鹿者!」


 3人の兵士に向かって、黒髪の女騎士さんは、とんでもない怒鳴り声を響かせた。


(ひえっ!?)


 僕とアイネは硬直する。


 3人の兵士たちも背筋を伸ばして、ガチンと固まっていた。


 そんな彼らを睨んで、


「この子たちは、聖女様が『会いたい』と望まれ、わざわざこの地まで足を運ばれたほどの客人だぞ! それを追い返そうとは、何たることか……っ!」


 黒髪の女騎士さんは、そう叱る。 


 若い兵士は「え? え?」と混乱し、口をパクパクさせる。


 他の2人の兵士も、顔色を青くしていた。 


 黒髪の女騎士さんは、そんな彼らに「処分はあとで下す。覚悟しておけ」と宣告すると、改めて僕らに向き直った。


 そして、


「大事な客人に、このような失礼な真似をして本当に申し訳ない。どうか許してくれ」


 バッ


 深く頭を下げてくる。


 僕とアイネはびっくりして、「あ……いえ」、「は、はい」としどろもどろに返事をした。


 彼女は頭をあげる。


「君がユアン殿。そして、そちらが付き添いのアイネ殿だな?」


 そう確認してきた。


 僕とアイネは、一緒にコクッと頷く。 


 すると、黒髪の女騎士さんの視線が、僕の袖に隠された『白い木の右腕』へと向けられた。


(…………)


 彼女は頷き、


「遠路遥々、よく来てくれた。――さあ、御二方を中にお通ししろ! 聖女様がお待ちだ!」


 そんな声が、その場に高らかに響いた。

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