024・野盗をやっつけて
突然、走ってきた僕に、野盗は驚いた顔をした。
でも、すぐに手にした剣を振り上げ、それを僕めがけて振り下ろしてくる。
ヒュッ ガシィン
その剣の刃を、僕の『白い木の右腕』は勝手に動いて、5本の指で挟んであっさりと受け止めてくれた。
「……は?」
野盗がポカンとする。
その目の前で、
バキン
指の力で剣が砕かれた。
思わず、野盗がのけぞり、
「な……なななっ!?」
悲鳴をあげたその顔に、また勝手に動いた『白い木の右腕』の拳がグシャッとめり込んだ。
鼻血を出して、野盗が倒れる。
そして、仲間の野盗たちもようやく僕の存在に気づいた。
「なんだ、このガキは!?」
野盗が叫ぶ。
そして、何人もの野盗が、こちらに襲いかかってきた。
迫った剣の1本を、僕の右手は素早く動いて掴み、そのまま力任せに野盗の手から奪い取って、他の剣を迎え撃った。
ガッ ガキッ ギキィン
空中に火花が散る。
こちらのたった1本の剣に対して、複数の野盗たちの方が押し込まれていく。
「こ、このガキ!?」
「強え!」
「く……っ、ふざけんな!」
野盗たちの怒声が響く。
その表情は、いつも狩っている魔物と変わらない凶悪さに見えた。
ちょっと怖い。
けど、力と速さは、こちらが圧倒的に上だった。
ガシュッ ブシュッ
「がっ!?」
「ぐあっ!」
「ひっ!?」
剣を弾いて、野盗たちの手や足を斬っていく。
血が散った。
その返り血を浴びながら、僕は、野盗たちが戦えなくなるように、何人もに傷を負わせていった。
「くそ、何だこのガキ!?」
1人が悲鳴のような声をあげる。
バキィ
その顔を、剣の腹で叩いて吹き飛ばした。
その野盗は、他の仲間たちの方までゴロゴロと転がっていく。
「…………」
「…………」
「…………」
その場にいた全員の動きが止まって、視線が僕に集中した。
ビュッ
僕は、手にした剣を振る。
すぐそばにあった木の幹が切断されて、メキメキと音を立てて地面に倒れていった。
「――まだやる?」
僕は聞いた。
この場で一番身体の大きな野盗が「ちっ」と舌打ちして、ピュウンと甲高い口笛を響かせる。
すると、野盗たちは一斉に身を翻し、茂みの中に消えていく。
(……ふう)
僕は息を吐く。
手にしていた野盗の剣をガランと地面に捨てて、気を抜いた――その時だった。
バッ
僕の『白い木の右腕』が勝手に動いて、頭の後ろで何かを掴んだ。
(え?)
僕の右手にあったのは、1本の矢だった。
見れば、遠くの茂みの奥で、あの身体の大きな野盗が弓を構えたまま、「くそっ」と悪態をついている姿が見えた。
…………。
その野盗が、こちらに背を向ける。
同時に、僕の左手にあった『ホーンナイフ』を白い右手が奪った。
ビュン
それを投げる。
「ぎゃっ!?」
茂みの奥で悲鳴があがった。
近づいてみると、野盗の姿はなくて、代わりに木の幹に刺さった『ホーンナイフ』と地面に落ちている片耳があった。
僕は、ホーンナイフを回収する。
今度こそ、周りに誰もいないのを確認してから、馬車の方へと戻っていった。
◇◇◇◇◇◇◇
「ユアン~!」
戻ったら、アイネに抱きつかれた。
心配をかけてしまったみたいで、ちょっと泣かれちゃった。
ごめんね、アイネ。
謝りながら彼女を宥めていると、野盗たちと戦ってくれていた人たちが「ありがとう」と声をかけてきた。
そして、その後ろの馬車から1人の男の人が降りてくる。
40代ぐらいの人かな?
着ている服も立派で、ちょっと格好いい人だった。
彼は両手を伸ばしてきて、
「ありがとう、勇敢な少年。おかげで我々の積み荷が奪われずに済んだよ、本当に助かった」
ギュッ
僕の手を握って、そうお礼を言ってきた。
その人は、ガービングさんって名乗った。
ガービングさんは商人らしくて、3台の馬車には、たくさんの商品が積み荷として積まれていたんだって。
「野盗に盗られていたら、大損害だった」
とのことだ。
(被害がなかったんなら、よかった)
僕もホッとする。
それから僕も名乗って、ガービングさんには「ユアン君は強いんだね」って感心された。
とりあえず、
「村でずっと魔物狩りをしてたんで」
って答えたら、護衛の人たちと一緒に目を丸くされてしまったよ。
それから、ガービングさんたちも東都ティアソラルへと向かう途中だとわかって、僕らの乗合馬車も一緒に行動することになった。
台数と人数が集まった方が襲われにくいからね。
「ユアン君がいれば安心だ」
なんて、ガービングさんには笑われたけど、護衛の人たちにはちょっと複雑そうな顔をされちゃった。
それから、僕とアイネも乗合馬車に戻った。
すると他の乗客には、パチパチパチと拍手されて、「君、凄いね」、「お菓子食べる?」なんて声をかけられるようになってしまった。
ちょっとこそばゆい。
でもアイネには、
「ユアンは強いけど、あんまり危険なことしちゃ駄目よ。人間は、ある意味、魔物よりも怖い生き物なんだから」
って叱られた。
僕を心配しての言葉だってわかるから、素直に頷いた。
でもアイネは、
「だけど、人助けは偉かったよ、ユアン」
最後に、そう笑ってくれた。
それが嬉しくて、つい僕も笑ってしまったんだ。
…………。
そこからは、4台の馬車での旅が続いた。
さすがにそれ以降は、野盗に襲われることもなくて、平和に街道を進むことができた。
やがて、東都が近くなると、街道も広くなり、他にもたくさんの馬車や竜車が見られるようになった。
街道も石畳だ。
石畳には、等間隔で光る石が埋め込まれていた。
「発光石だね」
と、ガービングさんが教えてくれた。
何でも、夜とか雨とかで街道が見づらい時に、どこに道が続いているかを示すための灯りなんだそうだ。
(都会って凄い)
僕は感心しちゃったよ。
アイネは「私も知ってたもん」って不貞腐れて、ガービングさんが苦笑しながら謝る一幕もあったっけ。
そんな感じで日々は流れ、
「あ……」
ある日の午前中、僕らの見つめる地平の先に、城壁に包まれた巨大な都市『東都ティアソラル』がついに姿を現したんだ。




