023・旅の道中
僕とアイネの旅は、順調だった。
最初の町までは、野宿をしたり、近くの村の教会で『院長先生の手紙』を見せて、そのまま泊めてもらったりした。
そうして1週間後、僕らは町に辿り着いた。
「わぁ……」
町を囲む石の壁があって、たくさんの家と人がいる。
小さな村の景色しか知らない僕には、とっても刺激的で、隣のアイネも瞳をキラキラと輝かせていた。
その日は、町の宿に1泊。
村で食べるのとは違う、ちょっと手の込んだ美味しい料理が出てきて、びっくりしちゃった。
そんな夕食の話をアイネとしながら就寝。
翌日は、朝から東都ティアソラルに向かう乗合馬車を探して、馬車ギルドに行った。
ギルドの人にアイネが話を聞いて、
「12番の馬車で、1時間後に出発するって」
と切符を買ってくれた。
乗降場へ移動すると、たくさんの馬車が停まっていた。
そこには、車両を引くのが馬ではなくて、4本足の竜と繋がれた『竜車』もあった。
(かっこいい!)
思わず、魅入っちゃった。
アイネに「あっちの竜車じゃいけないの?」って聞いたら、
「料金が倍するの」
って言われた。
これから何があるかわからないから、なるべく節約したいってのがアイネの考えみたい。
(そっか)
ちょっと残念。
でも、旅のことはアイネに任せるって決めたから、それに従うよ。
ちなみに竜車は、竜自体が強いから安全面では馬車よりもいいらしいけど、到着時期は同じぐらいなんだって。
そうして1時間後、僕らは馬車に乗った。
乗合馬車なので、客車が大きくて、そこには僕らも含めて20人ぐらいの旅人が乗っていた。
ドキドキ
実は、初めての馬車。
ちょっと緊張する。
やがて、乗降場の鐘がガランガランとなって、僕らの乗った馬車は出発した。
「窓から遠くを見てると、酔わないよ」
そうアイネが教えてくれた。
アイネは孤児院に来る前は、ずっと馬車で旅をしていたから、そういうことを知ってるんだって。
(そうなんだ)
僕は言われた通りにする。
窓からは、馬車が石の壁に造られた門を通り抜け、広い街道へと出ていく光景が見えた。
広がる草原。
遠くには森と山脈が見えて、その向こうには青い空があった。
ガタゴト
車輪が回り、座席に振動が伝わる。
今日から2~3週間、東都ティアソラルを目指して、僕とアイネの馬車の旅が始まった。
◇◇◇◇◇◇◇
馬車は、街道を進んでいく。
町を出発してから10日、旅の途中で何回か他の町にも寄って、乗合馬車なので、そこで降りる乗客もいれば、新しい乗客も増えたりした。
(なんか楽しいな)
色んなことが新鮮だ。
アイネは地図を見ながら、
「このペースなら、来週には東都ティアソラルに着きそうだわ」
って言ってた。
(来週かぁ)
東都って、どんな所なんだろう?
どれだけたくさんの人や建物があるのか、ちょっと想像がつかないや。
でも楽しみだ。
そんな僕に、アイネも「楽しみよね」って笑ってくれた。
その時だった。
キシッ
長袖の服と手袋に隠された僕の『白い木の右腕』がかすかに軋んだ。
(ん?)
それと同時に、ガッタンと車内が揺れて、馬車が急停止した。
わっ?
思わずアイネが僕の方に倒れ込んできて、慌てて支える。
他の乗客たちもバランスを崩したり、「どうしたんだ?」、「何が起きたの?」と声をあげている。
僕は、窓から顔を出した。
すると、僕らの前方の街道に、3台ほどの馬車が停車していた。
道が塞がっている。
そして、その3台の馬車の周りには、剥き出しの剣を手にした黒ずくめの人たちが20~30人ぐらい集まっていたんだ。
「野盗だ!」
車内の誰かが叫んだ。
もしかしたら、御者さんだったかもしれない。
みんな顔を青ざめさせ、アイネも僕の腕をギュッと強く掴んだ。
野盗。
つまり、他人の物を盗む悪い人たちだ。
3台の馬車を守るように戦っている武装した人たちも5人ぐらいいたけど、多勢に無勢で守り切れてないみたいだった。
ギシギシ
僕の『白い木の右腕』が何かを促すように揺れる。
(うん!)
僕は立ち上がった。
驚いた顔をするアイネに、
「ちょっと行ってくるね」
そう笑いかけて、馬車の外へとヒョイと降りる。
「ユアン!」
アイネの慌てたような声が聞こえたけれど、僕は「大丈夫。アイネは来ちゃ駄目だよ」と言って、野盗の方へと歩きだした。
シュラン
左手で『ホーンナイフ』を抜く。
野盗たちは3台の馬車に夢中だったけど、近づく子供の僕にようやく気づいた。
「なんだ、テメエ?」
野盗の1人が言った。
僕は笑って、
「ユアン」
そう答えると、そちらに向かってタッと地面を蹴って走り出した。




