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白い木の右腕のユアン  作者: 月ノ宮マクラ


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022・2人の旅立ち

 突然だけど、僕らが暮らしている大陸は、アシュトレイン帝国っていう世界一大きな国が治めているんだ。


 そして、アシュトレイン帝国は、その広大な国土の中に5つの『領国』を従えている。


 その1つが『領国グレイブ』。


 僕らの暮らしている国だ。


 領国グレイブの首都は『領都グレイソラル』って言って、そこには『グレイブ領王』様がいらっしゃるんだ。


 そして、領都グレイソラルの東西南北には、東都、西都、南都、北都と呼ばれる4つの大きな都市もあって、僕らの暮らしている村は、東都ティアソラルの近くにある。


 近くと言っても、移動に1ヶ月ぐらいかかるけどね。


 …………。


 アシュトレイン帝国では、『輝月教』っていう宗教が広く信仰されている。


 大昔、魔竜をやっつけて世界を守ってくれた『輝月の女神ルナティア』様を崇めて、世界の平和を守っていこうって宗教なんだ。


 うん、そう。


 僕の暮らしている孤児院のある教会も『ルナティア教会』、つまり輝月教の教会なんだ。


 帝国の影響で、5つの領国にもその教えが広まっている。


 各領国の5つの領都には、輝月教を教える中心となる『大教会』っていう立派な建物もあるんだ。


 そして、各領国の『大教会』にはアシュトレイン帝国の『神国大教会』から派遣された、奇跡の使い手と呼ばれる5人の『聖女』様たちがいらっしゃるんだって。


 彼女たちは、雲の上の存在。


 ある意味では、領王様と同じか、それ以上に偉い方たちなんだ。


 …………。


 …………。


 …………。


 で、そんなすっごい人に、僕は名指しで『会いたい』と言われてしまったらしい……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「ど、どうして、ユアンが?」


 院長先生にそう聞いてくれたのは、隣のアイネだった。


 僕も同じ気持ち。


 院長先生は、少し困った顔をして、


「わからないわ。けれど、恐らく、ユアンの右腕の不思議な力について興味を持たれたのだと思うの」


 と言った。


 僕とアイネ、みんなの視線が『白い木の右腕』に集まる。


 院長先生が言うには、僕が初めてレッドウルフをやっつけた時、領都の大教会に報告の手紙を送ったそうなんだ。


(そういえば……)


 そんなこと言ってたね。


 大教会からの返事に半年もかかったのは、領都までの距離と冬で道が塞がってたのもあるんだろうって。


 そして、


「大教会には多くの神官がいて、日々、奇跡の探求をしているの。だから常に、世界中で起きている不思議な現象についての情報を集めているの」

「…………」

「…………」

「ユアンの右腕も、その1つと目されたのだと思うわ」


 だって。


(そうなんだ?)


 僕としては、戸惑うばかりだよ。


 院長先生は「ただ……聖女様直々にお声がけされるとは、さすがに予想していなかったけれど」と、苦笑いをして続けた。


 しばらく沈黙が落ちる。


 でも、聖女様と大教会からの要請を断ることなんてできない。


 院長先生は、届けられた手紙に視線を落として、


「恐れ多くもありがたいことに、聖女様は、ユアンの年齢を慮って、領都グレイソラルから東都ティアソラルまで足を運んでくださるそうなの」


 と教えてくれた。


(そうなの?)


 村から領都までは2~3ヶ月かかるけど、東都までなら1ヶ月ぐらいだ。


 とってもありがたい話。


 僕は、


「聖女様って優しいね」


 と笑った。


 院長先生は少し複雑そうに微笑んで、「そうですね」と息を吐いた。


 アイネも考えながら、「聖女様が動かれるなら、きっと周りの人たちは大変そう……」って呟いてた。


 そうした訳で、僕は、突然のことだったけれど、東都ティアソラルまで行かなければいけなくなった。


 でも、


「ユアン1人じゃ不安です」


 って、アイネが院長先生に訴えた。


 本当は院長先生が付き添えたらいいんだけど、孤児院のみんなのこともあるし、村のお医者さんの役目もあるから無理なんだ。


 そこで付き添いは、アイネになった。


「アイネなら、村の大人たちよりしっかりしていますから大丈夫ね」


 と、院長先生も頷いてた。


 ちなみに護衛は、村で1番強いのが僕だからいらないってことになった。


 それからは、すぐに旅立ちの準備を始めた。


 村長さんにも相談して、道中のお金や食料、水などの用意もしてもらった。


 最初に聞いた時は、


「ユアンが聖女様に会う!?」


 って驚いてたけどね。


 その話は村中に駆け巡って、なぜか教会まで僕のことを覗きに来る人までいたりしたんだ。


 そんな感じで、旅の準備は数日で終わった。


 みんなとは、短くても2ヶ月間も会えなくなるのが寂しかったけど、でも、みんな『がんばってこいよ』って励ましてくれた。


 その夜は、みんなで一緒になって眠った。


 そして翌日、僕とアイネは、村を出ることになった。


 身につけているのは『炎皮のローブ』に『ホーンナイフ』、それから、色んな荷物の詰まったリュックだ。


 アイネはそれに『木の盾』も背負っている。


 教会の前で、


「それじゃあ、いってきます」

「いってきます」


 僕とアイネは、院長先生とみんなに、そう別れの挨拶をした。


 院長先生とみんなも「いってらっしゃい」、「気をつけてな」、「しっかりやれよ~」なんて言葉を返してくれて、歩きだした僕らに手を振ってくれる。


 僕とアイネも、笑って手を振り返した。


 道すがら、村の人たちとも元気に『いってきます』の挨拶を交わして、村を出た。


 いつものように、村から続く細道を歩く。


 でも、今日は2人きり。


 それが新鮮で、だけども、ちょっとだけ心細くって。


(…………)


 何となく、青い空を見上げてしまう。


 隣では、アイネが歩きながら地図を広げて、これからの道順を確認していた。


「まずは、1番近い町ね」


 と、アイネ。


 その説明によれば、ここから1週間ほどの町まで徒歩で移動、そこから出ている馬車に乗って2~3週間ほどで『東都ティアソラル』に着けるんだって。


 およそ1ヶ月の旅。


 アイネは、


「ちょっと高いけど『竜車』にしたら、もっと安全に旅できるけど……」


 なんて呟いていた。


(……うん)


 どう旅をどうするかは、もうアイネに任せちゃっていいかな。  


 僕よりずっと詳しいもの。


 僕は「アイネの好きにしていいよ」って笑って、アイネも「うん!」って嬉しそうに頷いた。


 吹き抜ける風が、木々の葉を揺らす。


 長くなびいた赤毛の髪を、アイネの手が軽く押さえた。


 そうして僕とアイネの2人は、東都ティアソラルで聖女様と会うために、陽の光の差し込む細道を歩いていったんだ。

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