021・領都からの手紙
「んん……っ」
メキメキ ピョコン
強く思うと、手のひらから白い枝が生え、その先に『真っ赤な丸い実』ができあがる。
それを潰して、その果汁を陶器の小瓶に注いでいく。
今日は、これで5つ目。
でも、ここまで来ると、僕も疲れてしまって、これ以上は生み出せなくなるんだ。
「はぁ、はぁ」
つい椅子に座り込んじゃった。
アイネは、陶器の小瓶に木の栓をして、
「お疲れ様、ユアン」
と、笑顔で労ってくれた。
僕も笑って「ううん」って応える。
アイネは、できあがった5本の『陶器の小瓶』を抱えて、「ちょっと行ってくるわね」って院長先生に届けに行った。
僕は、その背中を見送る。
それから、大きく息を吐いた。
…………。
アイネが治ってから、3日が経った。
それからは、院長先生に頼まれたので、病気を治せる『真っ赤な丸い実』を毎日、作っている。
院長先生は、教会の神官。
でも、それだけじゃなくて、村のお医者さんでもあったんだ。
そんな院長先生の話によると、
「どうも流行り風邪が村で広がったみたいなの。症状は酷くないけれど、子供や老人、体力のない人は重症化して亡くなってしまう場合もあるわ」
とのこと。
ちなみに、アイネも同じ病気だったって。
……本当、アイネが治ってよかったよ。
ともあれ、村ではもう20人以上がその病気で寝込んでしまっているらしくて、それで僕にも助けを求められたんだ。
そうして僕は、毎日、『真っ赤な丸い実』を作った。
僕の『白い木の右腕』の力については内緒なので、その果汁だけを小瓶につめて、それを預かった院長先生が患者さんの家を回っている。
結果は、
「飲んだ人は皆、一晩で快復しているわ」
だって。
(よかった)
僕は、アイネやみんなと喜んだ。
院長先生も嬉しそうにしていて、「ユアン、本当にありがとう」って感謝の言葉をもらえたんだ。
でも、患者さんはまだいる。
これから、その流行り風邪にかかってしまう人もいるかもしれない。
だから、僕はもうしばらく『真っ赤な丸い実』を1日5つ、がんばって作り続けないといけないんだ。
でも、作るのは、すっごく疲れる。
それを知ったアイネたちは、僕の分も、掃除だったり、食事の用意や後片付けをやってくれてる。
「ありがと、アイネ」
そう言うと、アイネは笑った。
そして、
「何言ってるの。ユアンが1番がんばってるんだから、お礼なんていいんだよ。それに私たちは助け合う家族でしょ?」
そう言ってくれるんだ。
みんなも笑って、頷いてくれる。
……アイネ、みんな。
そんな風に心を温かくしながら、僕の冬の日々は過ぎていったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
2週間もすると、村の流行り風邪もなくなった。
みんな元気になったんだ。
それでも、もしもに備えて『真っ赤な丸い実』の果汁をつめた小瓶は、20本ぐらい保管してるんだって。
(……腐ったりしないかな?)
まぁ、その時は、またがんばるとしよう。
ちなみに、この小瓶の中身は、院長先生が調合して作った特製の薬だってことになっている。
僕の右腕のことは、内緒だからね。
ただ院長先生は、村長さんにだけは本当のことは伝えたそうだ。
「ユアンのがんばりは、知るべき立場の人には、ちゃんと知っていてもらおうと思ったの。そうでなければ、ユアンがあまりに可哀相でしょう?」
だって。
(……僕、可哀相かな?)
よくわかんない。
でも、アイネやみんなは『うん、うん』と頷いていたけれど。
とにかく、これで村は助かった。
村長さんからは、ちょっと珍しい都会のお菓子を贈られたりして、みんなで美味しく食べさせてもらったよ。
うん、これが1番嬉しかったかな?
あと、ちょっと不思議なんだけど、僕のことは内緒だったはずなのに、村の人の僕を見る目がちょっと変わった気がした。
悪いものじゃなくて、むしろ尊敬とか敬意……?
そんな感じの視線。
たまに、道でのすれ違いざまに、おばあさんとかに拝まれたりしちゃったっけ。
(なんで?)
そんな僕に、アイネが笑った。
「ユアンって、なんか不思議な子だから」
え?
「ユアンが村に来てから、たくさんの魔物が狩られたり、ゴブリンキングもやっつけられたりして、今回は村の流行り風邪も消えちゃった。だからじゃない?」
「…………」
僕は何も言えなかった。
秘密にしてたのに、でも、何となく気づかれてたってこと?
(……そっかぁ)
何か少し恥ずかしい。
そんな僕に、アイネやみんなはおかしそうに笑って、院長先生は少し困ったように微笑んだんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
そうして冬が終わり、月日が流れて、やがて春が来た。
雪が解けて、木々も緑に色づく。
(あったかいなぁ)
肌を撫でる空気も柔らかくて、なんだか心がホッとする。
そうして街道の雪が消えると、久しぶりに行商人がやって来たりして、村もちょっとだけ活気づくんだ。
僕らも、
「また魔物狩り、がんばろうね」
「うん」
アイネたちと笑って、数か月ぶりに森に入る計画を立てたりしてた。
そんなある日のこと、
「ごめんください」
とある冒険者が教会を訊ねてきた。
院長先生が応対する。
その人は、配達専門の冒険者さんで、どうやら教会宛の手紙を届けてくれたみたいなんだ。
受領のサインをすると、冒険者は村を出ていった。
院長先生は、手紙の送り主を確認して、
「まぁ、領都の大教会からだわ」
と驚きの声をあげた。
(領都から……?)
何ヶ月もかかる遠い所から届いたみたいだ。
思わず、アイネと顔を見合わせる。
院長先生は、その手紙を読むために、自分の部屋に行ってしまった。
僕たちは、いつものように教会のお掃除だ。
…………。
やがて、掃除が終わった。
その時、
「ユアン」
院長先生がやって来た。
(?)
僕を見る院長先生の顔は、どこか強張っていて、ちょっと顔色が悪い。
その手には、届いたばかりの手紙が握られていた。
そんな姿を、みんなでキョトンと見つめる。
そして、院長先生は、
「ユアン、落ち着いてお聞きなさい。領都グレイソラルにおわします大教会の聖女様から『ユアンに会いたい』と所望の手紙が届きました。すぐに旅立ちの準備をなさい」
そう震える声で毅然と言った。
…………。
…………。
……ほえ?




