018・村への帰路
西の空に太陽が沈んでいく。
ゴブリンとゴブリンキングとの戦いが終わったら、もう日暮れだった。
夜の森の移動は危険だというので、僕らは、アイザックさんたちの提案で、魔物のいない森の浅い所まで移動して、そこで野営して一晩を明かすことにしたんだ。
パチパチッ
焚火の炎が燃えている。
その前に座っていたシュレさんは、
「ふぅん、そんなことあったの」
手にしたスープを食べながら、事の顛末を聞いて、そんな呟きをこぼした。
ちなみに、スープは、リュシアさんが弓矢で仕留めたホーンラビットのお肉と、森の木の実と野草で作ったんだ。
(うん、美味しい)
僕もモグモグ食べる。
シュレさんは、そんな木製スプーンを持つ僕の『白い木の右腕』を見つめた。
そして、
「ゴブリンキングを倒せるなんて、正直、信じがたい。それに『解毒の葉』を生み出したりとか、ちょっと異常な現象。できれば、この目で見てみたかった」
なんて言う。
(う~ん)
できれば見せてあげたいけど、今日はがんばりすぎて疲れちゃったんだよね。
多分、これ以上、力を使うのは無理。
今だって、気を抜いたら眠っちゃいそうなんだ。
と、アイザックさんが、
「シュレ、無理は言うな。それにその右腕に関しては、もう何も聞かないってユアンと約束したんだ」
「わかったよ」
シュレさんは肩を竦め、
「私も命の恩人を困らせたくはない」
と続けた。
聞き入れてもらえて、ちょっと安心。
それにしても、今日は大変だった。
ゴブリンだけじゃなくて、あのゴブリンキングなんて魔物も出てくるし、とっても強かったし。
よく勝てたなぁって思う。
そこで、ふと思った。
「あの……ゴブリンキングって、どんな魔物なんですか?」
そう聞いてみた。
3人の冒険者はキョトンとして、
「ゴブリンの突然変異ね」
と、リュシアさんが教えてくれた。
ゴブリンは弱い魔物だけど、たまにその中から強いゴブリンが生まれてくる。
ゴブリンファイター、ゴブリンシャーマンなんて呼ばれるそうした強いゴブリンの中で、一番最強とされるのがゴブリンキングだ。
その強さは、小型の竜種もやっつけられるぐらい。
(竜も倒すの?)
それはびっくりだ。
時にゴブリンキングが率いる群れによって、人の町や村が壊滅することもあるんだって。
「怖い魔物だね」
「そうね」
僕の呟きに、リュシアさんは頷いた。
「でも、そんな滅多には現れないわ。それこそ4~5年に1度、目撃情報がギルドに報告されるぐらいかしら」
そうなんだ?
でも、そんな滅多に現れない魔物に出会うなんて、僕たち運が悪いんだね……。
そう言ったら、3人とも苦笑いしてた。
「だが、ユアンがいた」
「え?」
「それは幸運だったと俺たちは思っているぞ」
アイザックさんはそう笑う。
リュシアさん、シュレさんも頷いた。
3人の瞳には、ただ純粋な好意だけがあって、僕はなんだか恥ずかしくなってしまった。
そんな僕に、アイネもクスクス笑っている。
それから、
「あの、ユアンのこと、冒険者ギルドに報告するんですか?」
と3人に聞いた。
3人は顔を見合わせる。
アイザックさんが頷いて、
「そうだな。ゴブリンキング討伐については報告しないといけない。右腕のことは伏せるが、ユアンの貢献についても伝えたいと思う」
と言った。
アイネは「そうですか」と答え、ちょっと考え込む。
彼は笑って、言う。
「ユアンがいなければ、ゴブリンキングは倒せなかった。その勇気と活躍をなかったことにはしたくないんだ」
アイザックさん……。
でも、
(僕の力で倒したって感じはしないんだよね……)
あの場にはたくさんのゴブリンもいて、それをアイザックさんたちが倒してくれてたから、僕はゴブリンキングだけに集中できた。
もしゴブリンたちの相手もしてたら、絶対に勝てなかったと思ってる。
そういう意味では、ゴブリンの巣を見つけ、ゴブリンとゴブリンキングをやっつけられたのは、みんなで手にした勝利だと思うんだ。
って伝えたら、
「ユアン君はいい子だね!」
感激したリュシアさんに抱きしめられちゃった。
柔らかな弾力の胸が顔に当たってる。
ちょっとドキドキ。
アイザックさんとシュレさんも笑って、アイネは、リュシアさんとくっつく僕に、何だか慌てていた。
そうして森での夜は更けていく。
見張りは3人の冒険者がやってくれるということで、僕とアイネは食事が終わったらすぐ寝ることになった。
大きな木の下で、横になる。
「おやすみ、ユアン」
すぐ隣から、アイネの柔らかな声が聞こえる。
それに返事をしたかったけど、
(ふぁ……もう限界)
力を使いすぎたのか、横になった途端、僕はすぐに眠りの世界に落ちちゃったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼前に、僕ら5人は村へと帰ってきた。
すぐに村長さんの家で、討伐報告が行われた。
そこでは事前情報と違って、ゴブリンの群れが50体以上だったこと、ゴブリンキングがいたことも伝えられて、村の大人たちは唖然としちゃってた。
本来なら追加報酬を払わなきゃいけない。
でも、
「キングを倒したのはユアンだから、それはいい」
アイザックさんたちはそう言って、追加報酬は求めないでくれた。
よかった。
小さな村だから、その支払いを用意するのも厳しかったと思うもの。
(ありがとう、3人とも)
そう感謝する。
ただ村の人たちは、「ユアンが?」、「ゴブリンキングを?」と驚いて、お互いの顔を見合わせていたけどね。
何はともあれ、これで依頼達成だ。
アイザックさんたちは席を立つ。
村長の家の外で、3人は、僕とアイネに握手をしてくれた。
自分たちは『東都ティアソラル』を拠点に活動しているので、もし『東都』に来ることがあったら顔を出して欲しい……なんてことも言ってもらえた。
(……東都かぁ)
この地方で1番大きな都市だ。
でも、遠すぎて、ちょっと現実味がないや。
それでも、アイネは東都に行くことを想像しているのか、ちょっと興奮した顔だった。
そして、
「ユアン、アイネ、これを」
シュレさんがそう言いながら、僕ら2人の小さな手に『何か』を握らせた。
それは『木彫りの飾り』に紐をつけたネックレスだった。
キョトンとする僕らに、
「それは、私たちエルフの部族が恩人へと贈るもの。それを見せれば、他のエルフもお前たちによくしてくれるはずだよ」
と説明してくれた。
(そんな凄いものを?)
僕は驚いた。
けど、シュレさんは「ユアンは、私の命の恩人だからね」と微笑んだ。
…………。
笑ったの、初めて見た。
僕とアイネが「ありがとうございます」と下げた頭を、彼女はポンポンと軽く叩いて、仲間の方へ行ってしまった。
「それじゃあな」
「2人とも、元気でね」
「…………」
笑顔で手を振って、3人の冒険者は歩いていく。
そのまま村を出ていった。
僕とアイネ、村の人たちは、その背中が見えなくなるまで見送った。
アイネは息を吐く。
そして、僕を見て、
「私たちも帰ろっか?」
「うん」
アイネの笑顔に頷いて、僕たち2人も、自分たちの暮らす教会へと村の中を歩きだした。
しばらく行くと、道の前方に人影が見えた。
(あ)
院長先生とみんなだ。
どうやら迎えに来てくれたみたい。
僕とアイネは笑い合うと、手を振るみんなの元へと一緒に駆けだした。




