017・解毒の実
「2人とも大丈夫か?」
そんな声が聞こえて振り向けば、アイザックさんがリュシアさんの肩を借りながら、こちらにやって来ていた。
僕とアイネは立ち上がる。
「はい」
「大丈夫です」
そう答えた。
メキメキ……ッ
答えている間に、白い木でできた長剣は、僕の『白い木の右腕』の手のひらの中に戻っていった。
2人は、その様子をジッと見つめた。
少し離れた場所にあるゴブリンキングの死体にも視線を送ってから、
「その右腕は……?」
と聞かれた。
僕は困ったように笑って、
「えっと……ちょっと訳ありの右腕で……」
とだけ答えた。
アイザックさんとリュシアさんは顔を見合わせる。
何か言いたげだったけれど、大きく息を吐いた。
「そうか。正直、気にはなるんだが……ユアンに助けられたんだ、これ以上は聞かないよ。他の人にも口外しないと約束する」
そう言ってくれた。
リュシアさんも頷いてくれる。
(よかった)
僕は「ありがとうございます」って笑ったんだ。
その時、
「あっ」
アイネが大きな声をあげた。
慌てたように、アイザックさん、リュシアさんを見て、
「シュレさんが毒矢に刺されたんです! 早く処置しないと!」
「何!?」
「シュレが!?」
2人は愕然とした。
(そ、そうだった)
僕も思い出して、慌ててしまった。
僕ら4人は、急いでシュレさんの元へと走ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「シュレ!」
「しっかりして、シュレ!」
アイザックさん、リュシアさんが仲間のエルフさんに呼びかける。
シュレさんは、地面に寝かされていた。
すでに毒矢は抜かれて、傷口にはポーションがかけられ、傷自体は塞がっている。
けど、意識がない。
傷口付近の皮膚は、斑に変色していて、いまだに毒が彼女を蝕んでいることがわかった。
「くそ」
アイザックさんが悔しそうに呟く。
ポーションでは、怪我は治せても毒は消せない。
必要なのは解毒ポーションだけど、それは、さっきのゴブリンキングとの戦闘で瓶が割れてしまったそうなんだ。
泣きそうなアイネが問う。
「もう1本、ないんですか?」
「……ないわ」
リュシアさんが辛そうに答えた。
いつも解毒は、シュレさんの魔法でしていたので、解毒ポーションは予備のための1本しか用意してなかったんだって。
シュレさんの呼吸は、苦しそうだ。
アイザックさんは、
「仕方がない。俺が背負って、町まで急ぐ」
そう言った。
でも、
「……間に合わないわよ。ここから近くの町まで、半日はかかるわ。それに、魔物のいるこの森を抜けるのよ?」
「じゃあ、どうしろってんだ!?」
リュシアさんの指摘に、彼は怒鳴る。
リュシアさんは、ただ唇を噛み締めていた。
それを見たアイザックさんはうつむき、「……すまん」と謝る。
空気が重い。
アイネも悲しそうな顔だ。
僕も辛い。
(……どうにかできないのかな?)
そう思った、その時、
メキッ ミシシ
僕の『白い木の右腕』が勝手に持ち上がって、手のひらから『何か』が生えてきた。
葉っぱだ。
丸くて緑色の普通の葉っぱ。
でも、淡く光っている。
アイザックさん、リュシアさん、アイネの3人もそれを見て、何事だと驚いている。
「ユアン?」
アイネに聞かれた。
でも、僕にもわからない。
そう思ったら、僕の白い右手は、シュレさんの顔の上まで移動して、丸い『葉っぱ』ごと指を閉じたんだ。
グシャ ギュウウ……ッ
手の中で葉っぱが潰れ、そこから蜜のような液体が垂れてきた。
小指だけがピッと伸びる。
その先端は、シュレさんの唇の間に差し込まれ、垂れてきた液体がそのまま彼女の口の中に吸い込まれていった。
「……んっく」
シュレさんの喉が動いた。
しばらくすると、その表情が柔らかくなる。
(あ)
僕は気づいた。
アイネも気づいて、
「肌の色が元に戻ってるわ!」
と叫ぶ。
アイザックさんとリュシアさんも傷のあった脇腹を見るけれど、斑にあった変色は消え、綺麗な白い肌だけが残っていた。
「……本当だ」
「あぁ、シュレ! よかった!」
アイザックさんは茫然と呟き、リュシアさんはシュレさんに抱きつく。
(毒が消えたんだ)
よかった。
僕は息を吐く。
それからアイネと顔を見合わせ、笑い合った。
アイザックさんはそんな僕を見て、
「ユアン、君はいったい何者なんだ? ……いや、悪い。その腕のことは何も聞かないんだったな。あぁ、気にしないでくれ」
混乱したように、そう首を振る。
リュシアさんは、
ギュッ
僕の左手を握った。
「ありがとう、ユアン君。本当にありがとう!」
目に涙を滲ませながら、お礼を言ってくれた。
ううん。
やったのは僕じゃなくて、この『白い木の右腕』だから。
そう思いながら、首を左右に振った。
「……んあ?」
その時、シュレさんのまぶたが震えて開き、その意識を取り戻した。
「シュレ!」
「あぁ、シュレ!」
仲間の2人が顔を近づける。
目覚めたシュレさんは「……おはよう?」と言いながら、ゆっくりと身体を起こす。
毒の影響は、どこにも見られない。
ただ、まだ記憶がはっきりしていないのか、なんだか不思議そうな顔をしていた。
その姿を見たリュシアさんは、
ガバッ
泣きそうな顔で、彼女に抱きついた。
アイザックさんは笑って、クシャクシャとシュレさんの髪をかき回している。
「な、何事?」
突然のことにシュレさんは戸惑い、2人の仲間の様子に慌てていた。
僕とアイネは、顔を見合わせる。
それからおかしくなって、2人で一緒に笑ってしまったんだ。




