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白い木の右腕のユアン  作者: 月ノ宮マクラ


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016・ユアンVSゴブリンキング

(あれは、まずい)


 一目見ただけで、そうわかった。


 ゴブリンキングなんて名前がついているけれど、あれはゴブリンとは全く別の怪物だよ。


 ミシッ


 警告するように『白い木の右腕』が軋んだ。


(うん)


 僕はすぐに手袋を外して、手首まで隠していた袖をまくり上げる。


 もう秘密にしようなんて考えてる余裕はない。


 そんな僕にアイネはハッとしたけれど、状況をわかってくれたのか、その行為を止めることはなかった。


「でりゃああ!」


 アイザックさんが気合と共に、両手で長剣を振るう。


 ガギィン


 けれど、ゴブリンキングの振るった錆びた大剣が迎え撃って、火花と共に弾き飛ばされたのはアイザックさんの方だった。


 5メーガンぐらい吹っ飛ばされ、ガシャンと地面に落ちる。


「アイザック!?」


 リュシアさんが悲鳴のような声をあげる。


 倒れたアイザックさんに向かって歩くゴブリンキングに、慌てて矢を放った。


 バチィ


 赤銅色の皮膚に当たり、けれど矢は刺さらない。


 そして、周囲にはまだ他のゴブリンたちも残っていて、その小さな魔物たちはリュシアさんに襲いかかろうとした。


「魔射・天空よりの光矢!」 


 シュドドン


 シュレさんの魔法が落ちて、ゴブリンが一掃される。


 ゴブリンキングにも『魔法の矢』は当たっていたけれど、向こうは傷1つなかった。


『グルッ?』


 でも、注意は引けたみたい。


 ゴブリンキングはこちらに向き直ると、手にした錆びた大剣を大きく振り上げ、そのまま下からすくうように地面を殴った。


 ドパァアン


「!?」


 爆発したように地面が爆ぜて、瓦礫が飛んでくる。


 シュレさんは、慌てて杖を構えた。


「魔壁・遮断する光膜!」


 ピカッ


 魔法石が輝き、光の膜がシュレさんと僕とアイネの3人の正面に展開された。


 瓦礫は魔法の壁に跳ね返される。


 その時、


 ドスッ


 シュレさんの脇腹に、1本の矢が突き刺さった。


(えっ!?)


 驚き、振り返った先では、瀕死のゴブリンの1体が弓を構えている姿があった。


 ゴブリンは、ニヤリと笑う。


 その頭部に、リュシアさんの放った矢が突き刺さった。


 ゴブリンは倒れ、でも、同時にシュレさんも地面に膝をついて、そのまま倒れてしまった。


「シュレさん!?」


 僕とアイネは、慌てて彼女を見る。


 顔色が悪く、傷口が紫色になっていた。


 アイネはハッとする。


「毒矢だわ」


 毒!?


 僕は、唖然となってしまった。


 ズシン


 その時、地面が大きく揺れて、見れば、ゴブリンキングがこちらへと近づいてくる姿があった。


「逃げろ!」


 アイザックさんが叫んだ。


 彼はダメージが大きいみたいで、剣を支えに必死に立ち上がろうとしているところだった。


 リュシアさんも弓矢を放っている。


 けど、ゴブリンキングの丈夫な肌に弾かれていて、足止めにもなってくれそうになかった。


「ユ、ユアン」


 アイネが震えながら、僕の服の裾を掴んだ。


 僕は、その手を軽く握る。


 それから、アイネの手を外して、彼女を守るように前に立った。


「大丈夫」


 振り返らずに言う。


 アイネは必死に信じようとして「うん」と頷いてくれた。


 僕は、深呼吸。


 すぐ目の前には、赤銅色の巨人が迫っている。


 その手が錆びた大剣を振り上げて、


「――いくぞ」


 メキッ


 僕の声に応えて、『白い木の右腕』は力強く動き出した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 ゴブリンキングの手にした錆びた大剣が、空から落ちてくる。


 その瞬間、


 メキキッ


 僕の手のひらから、光を放つ『白い小剣』が生えてきて、僕の右腕はそれを頭上へと降り抜いた。


 大小2つの剣がぶつかり合い、


 ゴパァン


 白い火花と衝撃波が広がった。


『ゴアッ!?』 


 ゴブリンキングの巨体が、大きく後ろに仰け反っている。


 予想外の光景だったのか、アイザックさんとリュシアさんが「は……?」と驚いている顔が見えた。


 それを横目に、僕は前に走った。


「やっ!」


 ヒュッ ドパァン


 丸太より太いゴブリンキングの右足に『白い小剣』を叩き込み、その血と肉が弾けた。


『ギ……ッ!?』


 巨体がバランスを崩して、倒れてくる。


 頭が近づく。


(そこだ!)


 僕は、そこ目がけて『白い小剣』を振ろうとして、


「!」


 その寸前、ゴブリンキングが倒れ込みながらも、錆びた大剣の柄頭で僕を叩き潰そうとしているの気づいた。


 慌てて『白い小剣』をそこにぶつける。


 ドパァン


 光の爆発が起きて、その衝撃で、僕の小さな身体が吹き飛ばされた。


(ぐっ)


 地面の上をゴロゴロと転がる。


 そんな僕めがけて、ゴブリンキングは錆びた大剣を地面に突き刺し、それを振り上げた。


 地面が吹き飛び、巨大な瓦礫たちが飛んでくる。


 メキキッ


 僕の『白い木の右腕』の肘から『白い円形盾』が生えてきて、飛んできた瓦礫を次々に弾いていく。


 凄い衝撃だ。


(肩が痛い……っ) 


 歯を食い縛って、それに耐えた。


 ゴブリンキングは、無傷の僕を見て驚いた顔をしていた。


 でも、すぐに憤怒の表情で襲いかかってくる。


 ズシン ズシン


 足音が響く。


 このままだと、僕の方の消耗が激しくて、先に動けなくなってしまいそうだ。


(次で決める!)


 そう思った僕は、握っていた『白い小剣』は手の中に戻して、代わりに『白い木の右腕』を長く伸ばして、近くの木の枝を握った。


「たあっ!」


 グォン


 地面を蹴り、右腕の力を使って高く跳躍する。


 風を感じる。


 僕の小さな身体は、ゴブリンキングの巨体よりも高い10メーガン近い空中を飛んでいた。


『グガッ!?』


 ゴブリンキングも虚を突かれた顔だ。


 その顔へと、僕は、長さを戻した『白い木の右腕』を向けた。


(んん……っ!)


 最後の力を振り絞って、手のひらから長さ2メーガンはある『白い長剣』を生み出し、それを両手で握った。


 ゴブリンキングは、迎え撃つように錆びた大剣を振り上げる。


 ヒュゴッ


 僕めがけて、振られる大剣。


 それに対して僕も、


「やああああっ!」


 光り輝く『白い大剣』を全力で振り下ろした。


 キィン


 白い三日月のような剣閃が走り抜け、錆びた大剣を切断し、ゴブリンキングの巨体を真っ直ぐに通り抜けた。


 剣撃で落下の速度を相殺して、


 ズタン ゴロゴロ


 僕は、地面に転がりながら着地した。


「かはっ」


 衝撃で息が苦しい。


 それでも必死に顔をあげれば、そこには、縦真っ二つになって左右にずれていくゴブリンキングの巨体があった。


 ズシャアン


 血と臓物を散らしながら、地面に崩れ落ちる。


 …………。


 …………。


 …………。


 やった。


 その事実を理解し、僕は「はふぅ」と大きく息を吐いて、へたり込んでしまった。


「ユ、ユアン~!」


 向こうからアイネが走ってくる。


 と思ったら、赤毛の髪をなびかせたまま、僕に抱きついてきた。


(わっ?)


 支えきれなくて、僕は仰向けに倒れた。


 上から伸しかかるアイネは、ポロポロと泣いていた。


 泣きながら、笑っていた。


 それを見て、僕も笑った。


「勝ったよ」


 そう伝えながら、その頬に左手を伸ばして、優しく涙を拭ってあげたんだ。

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