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白い木の右腕のユアン  作者: 月ノ宮マクラ


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013・不可解な子供たち(※リュシア視点)

「あんな子供を『案内人』にするなんて、この村の人たちは何を考えてるんだ!?」


 アイザックは、そう怒った声をあげた。


 私は「まぁまぁ」と、いつものように彼を宥める。


 そんな私たちの前には、まだ10歳ぐらいの少年と少女の2人組が、街道へと向かう細道を歩いている背中があった。


 赤毛の髪をした女の子は、とても利発そう。


 将来、美人になるだろうなと思わせる整った顔立ちで、今は手にした地図を眺めながら、男の子に何かを話しかけていた。


 一方の男の子は、素朴な印象。


 何だかのんびりした雰囲気で、女の子に言われるままに「うん、うん」と頷いていた。


 2人とも、孤児だという。


 それを聞いたアイザックは、


「きっと身寄りがないから、魔物の棲家への案内なんて危険な役目を押し付けられたんだ」


 と、憤っている。


 アイザックは、昔から正義感が強かったから、こういうことが大嫌いなのよね。


(本当、変わらないわ)


 私は心の中で苦笑する。


 私とアイザックは、同じ村出身の幼馴染だった。


 私は獣人と人間のハーフで、混血児として村の子たちにいじめられたりしたけれど、それを庇ってくれたのが当時から正義感の強いアイザックだったわ。


 アイザックは昔から活動的な子だった。


 そんな彼が『冒険者になりたい』と言い出したのは当然で、それを聞いて、私も一緒に冒険者になることにしてしまったの。


 エルフのシューレイクリプトル――シュレとは、同じ時期に冒険者登録をした縁で仲間になった。


 ちなみに、実年齢は知らない。


 以来、4年間、3人での冒険者家業を続けている。


 今回も、魔物のせいで困っている村があるというので、正義感の強いアイザックが『ゴブリン討伐』の依頼を受けることになった。


 けど『案内人』は子供だった。


 アイザックが怒るのも、仕方がないかな……とは思うけど、


「あの子たち、本当に押し付けられたのかしら?」


 私は呟いた。


 アイザックは「は?」と私を見る。


「あんな小さい子たちだぞ? どう考えてもそうに決まってる」

「そうかしら?」


 それにしては悲壮感は感じられないし、それどころか、むしろ女の子なんて嬉々としている印象だけど。


 それを聞けば、


「……まだ幼いから、危険がわかってないだけだろ」


 彼は、そう唇を尖らせる。


 そうかもしれない。


(でも、そこまで幼い年齢でもないわよね?)


 それに、


「気づいてる?」

「何に?」

「あの子たちの着ているローブ。あれ、レッドウルフの毛皮で作った『炎皮のローブ』よ」


 アイザックは目を見開いた。


 レッドウルフは一般人には危険な魔物である。


 その素材を使った装備なんて、普通の村にはまずないし、それを孤児の子供が、それも2人とも着ているなんておかしいことなのだ。


 アイザックは、前を歩く子供2人を凝視する。


「本当か?」

「本当よ」


 私は頷いた。


 そんな嘘をついても、何の得もない。


 危険な役目を負った子供のために、村が貸与したのか……それにしたって、あまりに高額だ。


 私は言った。


「少なくともあの子たちは、それを着れるだけの何かができるってことよね」

「…………」


 アイザックは難しい顔をする。


 村長の紹介によれば、あの子たちは『村で一番森に詳しくて、村で一番強い』ということだったわ。


 強いというのは信じがたいけど、森に詳しいのは確かかもしれない。


 と、その時、


「あの男の子」


 最後尾を歩いて、今までずっと黙っていたシュレが、不意に口を開いた。


 私とアイザックは振り返る。


 その視線の先で、彼女はいつもと変わらない無表情のまま、


「その右腕から、魔力を感じる」


 と呟いた。


 魔力?


「そう。それもとてつもない魔力……今は内側に抑え込まれてるけど、外に出たらとんでもない感じ。正直、この自分の感覚が信じがたい」

「…………」

「…………」


 私とアイザックは、顔を見合わせてしまった。


 シュレは無口だけど、嘘は言わない。


 だからこそ、私たちはその意味をどう判断すればいいのか、わからなくなってしまった。


 ガシガシ


 アイザックは、乱暴に頭をかく。


 それから大きく息を吐いて、


「よくわからないが、あの2人が『案内人』としての力がありそうなのはわかったよ。だが、子供は子供だ。いざという時は、あの子らを守れるように注意しようぜ」

「そうね」

「ん、わかった」


 アイザックの提案に、私たちは頷いた。


 ふと気づけば、話に夢中で私たちの足が遅くなっていた。


 あの子たちとの距離が開いていて、気づいた2人は足を止めて、こちらを振り返っていた。


 視線が合う。


(…………)


 どちらもただの子供にしか見えない。 


 女の子の方が「どうかしましたか?」と心配そうに聞いてくる。


 私は笑って、


「ううん、何でもないわ」


 と答えた。


 アイザックたちと一緒に足を速める。


 それを見て、2人の子供たちも、また前を向いて歩きだした。


 歩きながら、男の子は何か気になったのか、左手で自分の右腕を撫でている。


「…………」


 まぁ、いいわ。


 今、大事なのはあの子たちの正体じゃなくて、クエストを無事に完遂させること。


 そして、5人で無事に帰ること。


 それを再確認して、秋空の下、私はアイザックたちと共に街道へと続く細道を歩いていった。

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