第九話 新たなる呪い
#第九話 新たなる呪い
ルヴァン邸に帰ってからもレオンさまは終始ご機嫌で前子爵もソフィア様も嬉しそうだった。
私もなんだかつられて嬉しくなったけれど、本格的に呪いの事をどうにかしないといけない。
解呪した時、当たり前にルーク様が残ると思っているけれど本当にそうなのだろうか?
レオンさまもエイル様も消えてしまう?そんなの悲しすぎる。
それとも、解呪の方法によっては別の誰かが残る事もありえる?
もしくは三人別々になるとか?
布団の中でぼんやり考えているといつの間にか眠ってしまったらしい。
「おやおや、すっかり忘れていたが様子を確認してみればちっとも不幸になってないではないか」
呪いの事を考えていたせいだろうか、魔法使いの姿は見えないけれど声が聞こえる。
声を掛けるか迷っていると更に続いた。
「仕方ない、追加でこの呪いをこうして、こうして、こうだ」
(ちょっと、あなた何やってるの!)
見えない魔法使いに向かって声を掛けようとしたら、夢からすーっと目が覚めた。
天井がぼんやりと見えるけれど、魔法使いはどこにもいない。
周りを見ても誰もいない。窓の外を眺めてみたけれど、箒に乗った魔法使いはいない。
外はまだ真っ暗だ。呪いの事を考えていたせいで変な夢を見たのだともう一度目を閉じて眠りについた。
「ちーちゃんおはよう!」
「おはようございますエイル様」
すっきりと晴れたいい朝だ。私は夢の事などすっかり忘れて元気なエイル様の笑顔を見て元気をもらった。
エイル様が顔を洗うのをお手伝いして一緒に食堂に向かう。
パンのいい香りがしてエイル様は鼻を少し上に向けてすんすんされる。
「あまりそんな風にしてらっしゃるとはしたないですよ」
エイル様の肩を抱いて顔を見て言い聞かせるようにすると「はーい」と元気よく返事される。
分かったのか分からないのか不明な元気な子犬を椅子に座らせて私も席に着く。
エイル様がいる時が一番穏やかな食事だ。
前子爵もソフィア様もエイル様を愛おしそうに見つめ、ゆっくりと時間が流れる。
食後のお茶がカップに注がれ、湯気がたゆたうのを何気なく見ていると、不意にエイル様がこめかみの辺りを両手で抑えて呻き始めた。
「う、う、う」
「エイル様、大丈夫ですか!」
「うるさい!」
声を荒げる事がなかったエイル様がそんな風におっしゃられるので驚いた。
前子爵は「医者を」と執事におっしゃられ、執事が慌てて出て行った。
私はテーブルの上の食器をエイル様が落とさないように少し離れた位置に移動してからエイル様の背中をさすった。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
自分でも何が大丈夫なのかは分からないけれど、とにかく落ち着かせる事が大事と口にした。
しばらくそうしていると落ち着いたのか、エイル様は顔を上げられた。そして私に抱き着いた。
「ちーちゃん、好き、大好き」
「私もですよエイル様。エイル様の事大好きです。いつも元気で私も元気をもらいます」
「本当?」
片頭痛か何かが突然発生して不安になったのかも知れない。私はエイル様の頭を撫でてあげた。
「もちろんですよ」
そうやって頭を撫でているとようやくエイル様は落ち着いて来た。
「どうしちゃったのかしら?頭が痛くなったの?」
ううん、と首を左右に振る。
「頭の中がうるさかったの」
「頭の中?」
「ルークとレオンがスープは音を立てるなとか、パンはフォークに刺すなとか、ちーちゃんをもっと見ろとか」
今まで表に出てない人格は感覚を共有しているようだったけれど身体の支配権はなかった。
しゃべる事も出来ないし、内側ですら意思の疎通は出来なかった。
けれど今のエイル様の話だと、内側で意思の疎通が図れているみたい。
思い当たるふしがありすぎる!
ゆうべのあの夢!追加の呪いだ!




