第八話 革工房
#第八話 革工房
レオンさまは当たり前のように私としっかり手を繋いで革製品の工房を目指される。
「工房はすぐだから迷子になる事はないが、少しでもクロと一緒にいたい」
もうルーク様とのデートを裏で見てどうすればいいか予習されたようにぐいぐい来られて私はドキドキしっぱなしだ。
歩く速度や時々気を使うように私を見られる所とか、道すがら並ぶ店の事を色々と話される所とかもう本当に慣れているとしか思えない。
あ、もしかしてレオンさまは無骨なイメージだけど実はモテてたりとか!?
工房に着くと、まだ中に入っていないのに革の匂いが漏れ出て来る。
私のような女性が普段来る所ではないと思いレオン様の後ろに隠れて中に入る。
眼鏡を鼻に掛けて気難しそうな顔をしてらっしゃる店主がレオン様と私を見て声を掛けられる。
「出兵か?」
女性を伴って買いに来たので無事の帰還を願って一緒に買いに来たと思われたのだと思う。
「いや、今日は演習で使うブーツの中敷きと靴紐を買いに来た」
店主の言葉を否定されるけれど、レオンさまはまんざらでもなさそうだ。
もちろん一緒に来るという事はそれなりの仲だからだ。
私は束になった中敷きを棚から取り出して一枚ずつめくって何が違うのかを確認したら、それぞれ微妙に形が違った。
私が手に持っているのを見て店主が違いを説明してくれる。
「先端の尖り具合や横幅の広さ、かかとの広さなどが少しずつ異なっていて、履いているうちに自分の足に馴染んで来る。あんたの旦那はかかとが広いからこれなんていいだろう」
言いながら私の手から中敷きの束を取り上げ、最後の方の二枚を取り出してから一枚を選んで机の上に置いた。
情報が多すぎてスルーしそうになったけれど、私のだんなさまではない。まだ!
「クロ、この店はよく利用してるし主とも顔見知りだから俺の事をよく知ってるんだ。だから中敷きはお任せなんだ」
ん?て事は出兵じゃないって事も知ってたわけ?店主はからかうのが上手みたい。
「そうなんですか?ではさっきの出兵の話もわざとおっしゃったって事ですか?」
「若者はいつまでも若者のつもりでいるし、いつまでもこのままが続くと勘違いする。それを少し教えてやると、大切なものに気が付くんだよ」
「そうして何組も結婚したカップルがいるらしいんだ」
!!!
なんかレオンさま今日は積極的すぎない!?
「私はただ靴紐を選びに来ただけなのに良からぬ男に騙されたようです。店主、お助けください」
「まあじっくり一人で考えるといい。今は靴紐の事だけ考えてればいい」
店主は私の味方になったのかそうでないのか分からない返事をしてお茶を濁すので私は靴紐を選び始めた。
そうしているうちにレオンさまは靴を脱いで店主に言われるがまま中敷きの上に足を置いて形を測られている。
足の甲の高さ、土踏まずの高さなど細部に渡って測られてから中敷きに更に小さなパーツを組み合わせて足の形を立体でサポートするように加工する。
それを靴に入れ、実際に履いてみて確認する。
「もう少し親指の辺りを厚めに」とか「足の外側がすり減っているからもう少し内側に向けて」とか細かすぎる注文をされ、店主が黙々と修正して直すのを繰り返して十分ほどするとようやく完成したらしい。
私もレオンさまの靴に合わせた茶色と赤の組紐に一目ぼれしたところだ。
「レオンさま、この組紐はどうでしょう?」
「クロはセンスがいい、早速結んでくれ」
私は椅子に腰かけるレオンさまの前にしゃがみ、新しい靴紐を穴に通していった。
両脚の靴紐を結ぶと、立ち上がってその場で足踏みをされる。
「うん、ぴったりだ。これで絶対に帰って来られる」
「いつまでもこのままは続かないからな」
店主がまた私を焚きつけて来る。
言われなくても分かってます。
この呪い、本当にどうしたらいいの?




