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日替わりだんなさま2 甘々特盛り  作者: 海のくらげ


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第七話 馬車

#第七話 馬車



馬車が走り出すとレオン様は何事もなかったかのように私に微笑まれてこれから行く場所を説明される。

「兵士にとって大事なものはブーツなんだ。晴れの日はもちろん、雨の日も雪の日も、川だろうが海だろうが履いたままずっと歩き続ける」

確かにそうかも知れない。

どんな時でもずっと履き続けるから自分にあったものが欲しい。

「では靴を新調しに行くのですか?」

「いや、靴は軍部から支給される。けれど既製品だから足に合わないんだ。だから中敷きを買いに行きたいんだ。クロはそんなの興味ないか?」

折角レオン様が大切にしてらっしゃる事を私に教えてくれたのだもの、それについては興味がある。

「いいえ、レオン様が大事にされているものなら私も一緒に選んでみたいです」

「クロにそう言ってもらえて嬉しい。中敷きの他に靴紐も買いたい」

レオン様が喜んでいただけるなら私も嬉しい。折角だからきちんと選ぼうっと。


「靴紐ですね、出兵前に家族や恋人に結んでもらうと生きて帰れるというジンクスを聞いた事があります」

言いながら少し切ない気持ちになってしまう。

戦争はない方がいい。

けれど人間同士話し合いで解決出来ない事もあるようで、そんな時には戦争が起きてしまう。

戦争の被害者はいつだって一般市民だ。

その被害者が一人でも少なくなるように出兵前に靴紐を結ぶジンクスが出来た。

そして、戦場で仮に捕虜となっても靴紐を結んでいる敵兵はその後ろに家族ありとして必ず生かしておくという暗黙のルールもある。


「よく知っているな。俺はクロに結んでもらいたい」

ああ、これは巷でよくあるプロポーズの言葉。

本当にレオン様はまっすぐにアプローチされる。

私の中の乙女が陥落してしまう。

「そのお申し出は大変嬉しく思いますけど、レオン様達の呪いも解決していませんし、私の中でも整理出来ていないので保留にさせてください」

かろうじてそれだけ口にするとレオン様は少しだけ寂しい顔をされてから思い直したように窓の外を指さされる。


「クロ、ここからずっと先の山の麓に白い建物が見えるか?」

「見えます。あれが何か?」

言ってから気付いた。

あれはレオン様が演習される時の場所に違いない。

「もしかして演習場ですか?」

「そうだ、あそこで我が軍は日夜鍛錬を繰り返し、国民を守るべく力を付けている」

「レオンさま、ご苦労さまです」

見えない所で努力されるレオンさまを感じられて愛おしい気持ちが沸いてしまった。

「クロに言われると照れるな。いや、嬉しい」

レオンさまはいつでもまっすぐだ。

胡麻化さずにきちんと言い直される。

喋ると心臓の拍動の音が口から洩れてしまいそうで私は何も言えなくなってしまった。



馬車が停まるとレオンさまは当たり前のように先に降りられて、下から私をエスコートしてくださる。

ステップを二段降りた所で何故か両手を広げられる。

「クロ、そこから飛び降りてみなよ。受け止めてやるよ」

何という事をおっしゃるのでしょう。

令嬢に飛べだなんて。

しかも受け止めるだなんて。

どうかしてらっしゃるとしか思えない。

「はい」とは言えず首を縦に振った。

念のため心の準備とレオンさまの準備とを確認してからレオンさまに向かって飛んだ。

ドレスが風になびき、髪がふわりと膨らみ、両手を広げるレオンさまに向かってゆっくりと飛んで行く。

受け止められ、抱きしめられ、地面に降ろされると一応準備していた言葉を口にした。

「子供じゃないんですから飛び降りなくてもちゃんと降りられますわ」

レオンさまは何故か私をもう一度抱きしめ耳元でそっと「可愛い」とつぶやかれた。


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