第十話 人さらい
#第十話 人さらい
こんな時に都合悪く人さらい(伯爵からの使い)がやって来た。
エイル様は子供の相手兼会議を和ませるためのマスコットとして伯爵から仕事を仰せつかっていて、こうして時々人さらいがやって来るのだ。
「今日は体調もよろしくないしお休みさせてもらったらいかがでしょう?」
もう少し状況を確認するまで人前に出るのは危険な気がするのでエイル様に進言した。
「ううん、伯爵から呼ばれたらいかないと」
えらい。
「えへへ」
あ、多分ルーク様とレオンさまも褒めてらっしゃる。
「さあ、急いでご支度ください」
人さらいは冷たく言う。伯爵に雇われているから人の心がないのか。
「エイル様は本日調子がよろしくないので私も付いて行きます」
有無を言わさずエイル様と手を繋いで馬車に向かった。
今日はレイナード・オルブライト伯爵と商人との絹取引に関する商談だ。
レイナード様(魔法使いに呪いを頼んだ張本人!)が商人に私とエイル様の事を紹介してくださる。
「こちらは我が部下ルヴァン子爵家の若き見習い、そしてその隣が許嫁のクロエ・オルダン子爵令嬢だ」
なんという事でしょう。私の周りの人達はどうしてこんなに外堀を埋めたがるのか。
「クロエ・オルダンですわ。レイナード様はご冗談がお好きでらっしゃいますので、訂正させていただきます。わがオルダン子爵家とルヴァン子爵家は一緒になって取引を行う間柄、その関係で若き見習いの面倒を少しだけ見る事にしています」
「なるほど、よくある話ですな。面倒を見るというのは口実で、両家の絆をより深いものにするために若者同士をくっつけるというのは」
ぎゃー!全く訂正されてない。
商人は笑いながら書類を机の上に広げ始めた。
商談が始まる。
お父さまとルーク様があれこれやっていたのを見ていたが、あれは互いを思っての事。
今日の商談は商人が儲けるための商談でそこに嘘が混じっているかも知れない。
その嘘を見抜けなければ商人が得をし伯爵家が損をする。
伯爵家が損をすれば巡り巡って領民が税金という形でその損を受け持つ事になるので伯爵家に損をさせるわけにはいかない。
商人が淡々と説明を始める。
レイナード様は目を瞑ったままじっと耳をそばだてられている。
「うん」
急にエイル様が返事をして、机に乗り出して商人が指さす辺りを見る。
あ、これ中でルーク様が指示してるんだわ。
本来今日の商談はルーク様がご出席される予定だったのかもしれない。
けれどエイル様の番だから仕方なくエイル様を参加させたのかも。
そんな事ならやっぱり呪いを依頼しなきゃよかったじゃない、この馬〇!
(不敬罪で捕まってしまうので心の中でも伏せた)
エイル様は商人の指を追い掛けていたけれど、時々無言で首を縦に振ったり横に振ったりしながら次第に商人の指から離れ、いつの間にか書類を勝手に見始めた。
ページをめくったり戻ったりしながらピタリと止まり、再び動き始める。
操られ感満載だけど、中にいるルーク様が指示を出しているのは心強い。
「この書類には不備がある」
エイル様は立って指を差して書類の不備を指摘される。
「ここと、ここ。ここも」
レイナード様も商人もエイル様をじっと見つめている。
特に商人の額にはうっすらと汗が滲んでいる。
隠し事を暴かれたような雰囲気。
ところが、その先は例え裏にルーク様がいたとしてもうまくいかなかった。
「生産量の数値と、租税・・・そぜい・・・」
「エイル、どうした?」
レイナード様が心配されるけれど、多分ルーク様の言葉をうまく口に出来ないのだと思う。
「知ってる単語を並べたのかな?邪魔しかしないのなら少し大人しくしててくれるかな」
商人がエイル様をたしなめる。
ルーク様なら何とかしてくれるのだけど。
何とかしましょう!




