第五話 カフェ
#第五話 カフェ
木工細工屋を出ると文房具商は二軒隣にあるのでルーク様はスイッチが入ってしまい私を置いてお店に入ってしまった。
私はゆっくりと文房具商に入り(もちろんドアは自分で開けた)、ルーク様がはしゃいでらっしゃるのを見ていた。
まあ、好きなものはしょうがない。
ルーク様は色々な軸を取り上げると握って、小指側の側面を紙の上に置いて筆を滑らせる仕草をされる。
そういえばルーク様はよく文字をお書きになるから、右手の小指側の側面にインクが付いている事があったような。
あのインクの跡、レオン様に切り替わったらどうなるのだろうか。
消えるのか?それとも消えないのか。
それに一周して再びルーク様に戻ったらどうなるのだろう。
今度試してみましょう、とは言えないけれど想像しておかしくなった。
そんな風に観察していたら、ルーク様は私の手をちらちらと見て来た。
でも見ても結局は分からなかったらしく、今まで選んでいた軸の内の一つを私に渡される。
「さすがに見ただけではどれがいいか分からない。クロエ、握ってみてくれ」
ああ、ルーク様は私にも筆をくださるつもりなのね。
ルーク様と同じように紙の上に筆を走らせた。
飾りのないシンプルな作りだけど、軽くて握り心地よくこれならいいかも。
「さすがルーク様、この筆はとてもステキです。気に入りました」
「そうか、ならこの筆と、インクを三種類選んでくれ。もし帰るような事があってもそれぞれの色で手紙を書いて欲しい」
何となくルーク様達もこのままではいられないと考えてらっしゃるみたい。
私はそれぞれの髪の色に合わせて、青と茶色と緑のインクを選んだ。
「分かりました。まず最初はルーク様にお書きしますね」
そう言って軸とインクをお渡しすると、ルーク様は嬉しそうに微笑まれた。
んー、どちらかと言うと勝ち誇る感じ?多分裏の二人に向けての事だと思う。
文房具商を出るとルーク様は自然に手を出して私の手を探される。
「なんですかルーク様、その手付き」
いたずらっぽく言うとルーク様はむきになって私の手を握られる。
「すまん、ついクロエの手を探していた。それより少しカフェで落ち着かないか?」
カフェ!ど定番!私の中の何かがカフェは危険と告げる。
「ええ、少し喉が渇いたので何か飲みたいと思っていた所です」
もうすっかりカフェは街で市民権を得たみたい。
そもそもお茶と言えば貴族の嗜みで屋敷に人を招いて飲むものだけれど、こうして街でもお茶が飲めるようになった。
甘いお菓子がたくさん用意されているわけではなく、欲しいものを幾つか選んで注文する事で安く出来るのだそう。
ルーク様と一緒にお店に入ると、店内はほとんどが女性でルーク様は少し気遅れされているような気がしたのでお店の隅にそっと陣取る事にした。
「ルーク様、何を頼まれますか?」
メニューをお渡しすると、あれこれ悩まれている最中にお店の給仕が注文を取りに来た。
「私はチョコレートムースを、ルーク様はサバランなんてどうでしょう?少しお酒を使ったケーキですよ」
「ああ、それはいいな。是非試してみたい」
「ではそれとセイロンを二杯お願いします」
セイロンはすっきりした渋みでお酒の香りを邪魔しない。
注文が届くまで店内を見渡すと、女性陣の賑やかな話し声が充満している。
男性客はルーク様だけかと思ったら、もう一人見慣れない方がいらっしゃる。
女性とお二人でいらして、やはりこちらも男性は注文に慣れていらっしゃらないので女性が注文された。
ケーキとお茶が来て手を付けようとした時、例の二人が店内の注目を一身に集めていた。
あれほど騒がしかった店内が二人の一挙手一投足を見逃すまいとしている。
そして、男性が口を開け、女性がその口にケーキを入れようとした瞬間、店内から黄色い悲鳴が沸き起こった。
私は何事かと振り返るルーク様の目を咄嗟に両手で覆い隠した。
「見ちゃダメです!!」
あんなもの見せたら三人誰とカフェに来てもやりたがるに決まっている。
見世物になるのは嫌だ。




